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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第13章 チョコレート少女


「えぇ。一休みされては?」

「話は終わったよ。打ち合わせなんて、あってないようなものだし」

 いやいや、大事なことでしょ。
 しかし、僕はそのツッコミを呑み込んだ。
 詞織さんは相手を確認せず、箱のラッピングを破る。

「どなたからですか?」

 一応、気を利かせたつもりで僕はナオミさんに聞いた。

「前に詞織ちゃんが護衛された方ですわ。幕僚の方々の間では、詞織ちゃんは人気ですのよ?」

 へぇ、と思わず相づちを打ってしまう。
 やはり、強いからだろうか。
 詞織さんが三箱とも包装を破り終えると、ナオミさんが「まぁ!」と感嘆の声を上げた。

「このチョコレート、隣町で数量限定、三時間待ち必至の大人気ショコラですわ!」

「三時間待ち⁉」

「こっちはVIP限定、一粒五千円のチョコレート!」

「一粒五千円⁉」

「これは、世界で屈指のショコラティエが、一日五個しか作らない幻のスウィーツ‼」

「幻の⁉」

 想像を絶する世界に、僕はただただ驚く。

「……っていうか、詳しいですね、ナオミさん」

「これくらい当然ですわ」

 艶やかにナオミさんが微笑んだ。
 その横でチョコレートの箱を開けながら、詞織さんが口を開く。

「あたしは別に、珍しいチョコとか、高いチョコが食べたいわけじゃないんだけど」

 言いながら、彼女はチョコレートを口に入れる。
 ガリガリと音を立てて咀嚼しながら、指についたココアパウダーを舐め取った。
 詞織さんが食べたのは、VIP限定だという、一粒五千円のチョコレートだ。
 五千円のチョコレートが、彼女の小さな口の中に消える。

「いかがです?」

「ん?」

 首を傾げた詞織さんは、チョコレートを一粒取り、ナオミさんに差し出した。
 食べてみたら? と言いたいらしい。
 ナオミさんはそれを見て、口を開け、「あーん」と差し出されたチョコレートを食べた。
 彼女の薄い唇が、詞織さんの指に触れる。
 次の瞬間、ココアパウダーのついた指を、詞織さんは再び口に含んだ。

「……⁉」
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