第12章 名探偵はお見通し
「昨日は火曜で平日だ。なのに遺体は私服で、化粧もしてなかった。激務で残業の多い刑事さんが平日に私服、かつ化粧なしとくれば、死んだのは早朝。一応推理できる」
なるほど、と自分でも推理したくせに納得した。
「他の……犯行現場とか、銃で脅したとかはどうやって」
「そこまではお手上げだよ。乱歩さんの目は、私なんかよりずっと多くの手がかりを捉えていたのだろう」
そう言って太宰さんは両手を上げた。
太宰さんは乱歩さんに一目置いている。
乱歩さんの推理力は異能力ではない。
それはつまり、一人の人間が、観察と推断を基礎として、一瞬で論理的な結論を導き出したということ。
異能力者ならば、それはただの現象で、感心こそすれ驚くことではない。
けれど、乱歩さんのあれは、誰もが持つ思考力を働かせた結果なのだ。
太宰さんが初めて乱歩さんの能力の秘密を知ったとき、そう言っていたことを思い出した。
太宰さんの言葉は難しかったけど、とんでもなくすごいことだけは分かった。
尊敬されるだけの人間なのだと。
「あ、でも! 彼女の台詞も当ててましたよね」
敦が歩き出そうとする太宰さんに声をかけると、太宰さんは相槌を打った。
あたしも考えてみる。
殺された山際女史が自分を殺した杉本巡査に「ごめんなさい」と残す理由。
二人を思い出し、あたしは一つだけ共通点を見つけた。
二人が身に着けていた時計だ。
それがどういう意味なのか頭フル回転させ、一つの結論を導き出す。
ちょっとでも、太宰さんに褒めてもらいたくて。
「うん、あれはね……」
「……時計が同じデザインだった……とか?」
「そういうこと」
太宰さんがあたしの頭を撫でてくれる。