第12章 名探偵はお見通し
「すごかったですね、乱歩さん! まさか全部当てちゃうなんて。『超推理』、本当にすごいです!」
大絶賛する敦に太宰さんは顎に手を当てて何かを考えていた。
「う~ん……半分……くらいは分かったかな?」
「あたしはさっぱり。引っかかるところはあったんだけどなぁ」
隣を歩いている太宰さんを見上げると、前を歩いていた敦も足を止めて振り返った。
「分かったって……何がです?」
「だからさっきのだよ。乱歩さんがどうやって推理したか」
「え? だってそれは能力を使って……」
「敦、まだ知らないんだ」
あたしが言うと、太宰さんは「あのね」と謎かけの答えを明かすように続けた。
「実はね、乱歩さんは能力者じゃないのだよ」
「へっ⁉」
そうそう。
正直、今さらな気がするけど。
社員はみんな知ってるけど、敦は乱歩さんの『超推理』を見るのすら初めてか。
驚愕する敦に太宰さんは説明する。
「乱歩さんは、能力者揃いの探偵社では珍しい、何の能力も所持しない一般人なんだ」
「本人は能力を使ってるつもりみたいだけど」
あたしは太宰さんの説明にそうつけ足した。
「でも……どうやって事件の場所や時間を当てたんです⁉」
そんなの分かるわけないじゃん。
けど、太宰さんには分かったらしい。
「彼、言ってたよね。『偽装のためだけに遺骸に二発も撃つなんて』って」
「あ、そっか。三発撃たれてる死体を見たら、普通は”三発同時に撃たれた”って思うよね」
あたしは指をピストルの形にしてバンバンバンと仕草で示す。
あのときに感じた、台詞と遺体の違和感はそれだったんだ。
「そう。つまり、彼は一発目で被害者が死んだことを知っていたのだよ。解剖がまだなのにそれを知っているのは……」
「……犯人だけ」
「その通り」
呆然と答える敦に太宰さんが肯定した。
「でも、犯行時間も当ててましたよ。『昨日の早朝』だって」
「遺体の損壊が少なかったからじゃない? だから、川を流れていたのは長くて一日ってところになるでしょ?」
あたしが推測を口にすると、太宰さんは「あぁ」と頷いてくれる。