第12章 名探偵はお見通し
「彼女には交際相手はいないって話だったよね。でも、彼女の腕時計は海外ブランドのものだ。独り身の女性が自分用に買う品じゃあない。それに巡査の腕時計も同じモデルの紳士用だった」
太宰さんが話をまとめてくれた。
早朝の呼び出しに、化粧もせずに駆けつける。
そして、同じモデルの腕時計。
二人は――職場にも秘密の恋人同士だった。
だから、杉本巡査は彼女の顔を蹴り砕くことができなかった。
そうしないと、マフィアの仕業に見せかけられないと分かっていても……。
「さて、敦君。これで分かっただろう? 乱歩さんのあの態度を、探偵社の誰も咎めない理由がさ」
太宰さんは最後ににっこりと笑い、こちらに大きく手を振ってくる乱歩さんに視線を移したのだった。