第12章 名探偵はお見通し
そこで、杉本巡査は銃を使った。
自分が証拠の奪取に失敗すれば、次は殺し屋が動く。その前に渡してくれ。
それでも、彼女は引かなかった。
あなたに私は撃てない、そう言われたそうだ。
もちろん、その通りだった。
杉本巡査には山際女史を撃つことなどできない。
だから、杉本巡査はその銃口を自分の頭につきつけた。
渡さなければ自殺するぞ、と脅したのだ。
そして、それを止めようとした山際女史ともみ合いになり、何かの拍子で引き金が弾かれた。
銃弾に倒れた山際女史は――……。
* * *
「このままでは殺人犯、警官もクビになる。混乱した君が頼れる人物は、皮肉なことに一人しかいなかった」
電話した杉本巡査にその議員は証拠の隠滅の方法を教え、彼はその通りに彼女の胸にもう二発撃ち、マフィアの仕業に偽装した。そして発見を遅らせるため、遺体を川に遺棄。
「山際が入手したという証拠品はどこだ?」
黙秘する元部下に、箕浦刑事委は机を叩いて怒鳴った。
「その議員は山際の仇だ! 言え、杉本‼」
けれど、杉本巡査は黙秘を続ける。
恩義があるからだろうか。
その心は、あたしの頭では量れなかった。
マジックミラー越しに取調室を見ていると、乱歩さんがゆっくりとした足取りで杉本巡査の後ろに回り、彼の肩に手を置く。
「彼女の最期の台詞を当ててみせようか」
優しい声音で、それは紡がれた。
――ごめんなさい……。
それを乱歩さんが口にすると、杉本巡査はそのときのことを思い出したのか、涙を流して顔を伏せる。
「……本当に、全てお見通しなのですね……」
証拠は、机の引き出しに。
あたしたちは何を言うこともなく、何も言うことができず。
ただ、黙ってその様子を見ていた。
* * *
「……世話になったな。それに……何だ、実力を疑って悪かった。難事件があったら、また頼む」
「僕の能力が必要になったら、いつでもご用命を。次からは割引価格で良いよ」
バツが悪そうに首の後ろを掻く箕浦刑事に、乱歩さんはにっこりと笑って言った。
僕の能力が必要になったら、か。
でも、あたしは知っている。
乱歩さんは――……。
――少し前。取り調べで犯人が自供し、乱歩さんを待っている間のこと。