第12章 名探偵はお見通し
「お、やるねぇ」
太宰さんが敦に称賛の言葉を贈る。
何か、いいところ持ってかれたみたいで悔しい。
あたしだってあれくらいやれるのに! すっごい悔しい!
あたしは自分が蹴り上げた銃を拾って、太宰さんに差し出す。
太宰さんが弾倉を確認すると、乱歩さんの言った通り、三発足りなかった。
「放せ! 僕は関係ない‼」
「逃げても無駄だよ」
地面に膝をつき、杉本巡査に乱歩さんは語りかける。
「犯行時刻は昨日の早朝。場所はここから一四〇メートル上流の造船場跡地」
「なっ、なぜそれを……!」
それは先ほどよりも明確な自白だった。
「そこに行けばあるはずだ。君と被害者の足跡が。消しきれなかった血痕も」
バレるはずはなかったのに、と消え入りそうな声で杉本巡査は零した。
箕浦刑事が、今や殺人犯となった警官に手錠を掛ける。
その表情は、一度にニ人の部下を失った悲しみを湛えていた。
* * *
「撃つつもりは……なかったんです」
杉本巡査の自供は、その一言から始まった。
乱歩さんは事件を解決した名探偵として取り調べに同席し、あたしと太宰さんと敦は、その隣室でそれを見ている。
取調室からこちらは見えないけど、こちらからは取調室がバッチリ見える、マジックミラーだ。
……山際女史は、政治家の汚職事件を追っていた。
そこで予想外にも、ある大物議員の犯罪を示す証拠を入手したらしい。
けど、その議員も狡猾で、警察のスパイを使い、証拠を消そうと画策した。
そのスパイが――杉本巡査だったというわけだ。
ずっと警察官に憧れていた彼は、試験に三度落ちて落ち込んでいるとき、男に声をかけられた。
――『警察官になりたいか』、と。
議員の力で警官になった杉浦巡査は、その見返りとして指示に従っていたようだ。
けれど、議員の命令で山際女史を殺したわけではない。
ただ、警告をしただけだと彼は言った。
このままでは議員に消されてしまう。だから証拠を手放せ、と。
しかし彼女は、向こうが本気ならば自分も本気になるだけだ、と言った。
すでに馴染みの検察に渡りをつけ、後は証拠を渡すだけだ。