第12章 名探偵はお見通し
「ば、馬鹿言わないでください! 一般人に官給の拳銃を渡したりしたら、減俸じゃ済みませんよ‼」
そりゃあ、そうだ。
至極真っ当な意見。
けれど、乱歩さんに犯人として告発された彼の言葉は、あたしには白々しく聞こえた。
「その通りだ。何を言い出すかと思えば……探偵って奴は、口先だけの阿呆(あほう)なのか?」
「その銃を調べて何も出なければ、僕は口先だけの阿呆ってことになる」
乱歩さんはそういうけど、乱歩さんの能力の凄さを知っているあたしと太宰さんには、すでに確信があった。
その拳銃こそが、決定的な証拠なのだと。
「……ふん。貴様の舌先三寸はもうたくさんだ。杉本、見せてやれ」
「え? で、ですが……」
逡巡する杉本巡査に、上司である箕浦刑事が許可を出す。
「ここまで吠えたんだ。納得すれば大人しく帰るだろう。これ以上時間を無駄にできん。銃を渡してやれ」
「…………」
杉本巡査は動かなかった。
明らかに様子のおかしい部下に、箕浦刑事は「おい、どうした」と尋ねる。
その理由を説明するように、名探偵は一歩前へ踏み出した。
「いくらこの街でも、素人が銃弾を補充するのは簡単じゃない。官給品であればなおさら」
乱歩さんに指摘を受け、杉本巡査が微かに震える。
「何を……黙っている、杉本」
名前を呼ばれても、彼は俯くばかりで反応を示さない。
「彼は考えている最中だよ。減った三発分の銃弾について、どう言い訳するかをね」
犯人を指差し、乱歩さんは杉本巡査の心の内を言い当てる。
「オイ、杉本! お前が犯人のはずがない! だから早く銃を渡せ‼」
部下の罪を認めたくない、それは上司としての最後の願いにも聞こえた。
杉本巡査が腰のホルスターへ手を伸ばす。
そこから拳銃を取り出した彼は、そのまま銃を差し出すのかと思えた。
けれど、カチッと安全装置を解除する音。
あたしが動き出したのと、杉本巡査が銃を構えたのと、太宰さんが「行け、敦君!」と敦を犯人へ向けて押し出したのと、箕浦巡査が「止めろ!」と叫んだのは、ほぼ同時だった。
あたしは横から杉本巡査の銃を蹴り上げ、敦は後ろから彼に掴みかかる。
後ろから乗っかるように腕と身体を拘束し、敦は杉本巡査を地面に押さえつけた。