第12章 名探偵はお見通し
「あのなぁ、貴様! さっきから聞いていれば、やれ推理だやれ名探偵だなどと、通俗創作の読み過ぎだ! 事件解明はすなわち、地道な調査、聞き込み、現場検証だろうが‼」
至極真っ当な意見だが、そんなことが通じないからこその乱歩さんであり、名探偵たる所以でもある。
案の定、乱歩さんは気の抜けた声を出しながら呆れた顔をした。
「はぁ? まだ分かってないの? 名探偵は調査なんかしないの。僕の能力『超推理』は、ひとたび経始(けいし)すれば、犯人が誰で、いつどうやって殺したか瞬時に分かるんだよ。のみならず、どこに証拠があって、どう押せば犯人が自白するかも、啓示のごとく頭に浮かぶ」
それを聞いた箕浦刑事の怒りのボルテージがどんどん上がっていく。
「ふざけるな! 貴様は神か何かか! そんな力があるなら、俺たち刑事はみんな免職じゃないか‼」
まぁ、乱歩さんが一人しかいないから、刑事がいるようなもんだよね。
吠える箕浦刑事に、乱歩さんは馬鹿にしたように言い放った。
「まさにその通り。ようやく理解が追いついたじゃないか」
そう言われた箕浦刑事の中で、何かが切れた音が聞こえたような気がした。
きっと、長年の刑事という職業に誇りを持っているのだろう。
今にも掴みかかりそうな箕浦刑事と悪意のない乱歩さんの間に、太宰さんが割って入った。
「まぁまぁ、刑事さん、落ち着いて。乱歩さんは始終こんな感じですから」
太宰さんが間に入ったことで、箕浦刑事がわずかに落ち着きを取り戻す。
だが、それをぶち壊しにするのも、また乱歩さんだった。
「僕の座右の銘は、『僕が良ければすべてよし』だからな!」
敦がすごい納得って顔でげんなりしていた。
あたしも、乱歩さんの座右の銘は初めて聞いたけど。
こんなに座右の銘を体現してる人って……。
中島敦――座右の銘『生きているならいいじゃない』。
太宰治――座右の銘『清く明るく元気な自殺』。
櫻城詞織――座右の銘『太宰さん至上主義』。
……案外いるのね。まぁ、それが座右の銘だし。