第12章 名探偵はお見通し
「そうなのだよ、詞織! かくのごとき華麗なるご婦人が、その若き命を散らしてしまったんだ! 何という悲劇! 悲嘆で胸が破れそうだよ! どうせなら私と心中してくれれば良かったのに‼」
女性は胸部を銃で三発撃たれている。それ以外は、殺害現場も時刻も不明。
弾丸すら貫通していて発見できていない。
特定の交際相手もおらず、容疑者は一人も上がっていないのが現状、か。
「……誰なんだ、あいつは」
尋ねたのは、現場を取り仕切る箕輪刑事だ。
ちなみに被害者は彼の部下らしい。
いかにも、な堅物刑事に、乱歩さんは「同僚である僕にも謎だね」と答える。
結構長い時間を太宰さんと過ごしてきたけど、あたしも太宰さんのことはよく分からないなぁ。
あたしも、「兄様のことなら何でも知っていますの」って言うナオちゃんみたいに、「太宰さんのことなら何でも分かる」って言ってみたい。
「まぁ、乱歩さんがいるわけだし、すぐに解決でしょ?」
あたしが乱歩さんに「ねぇ?」っていうと、乱歩さんは軽く肩を竦めた。
「ところが、僕は未だに依頼を受けていないのだ。名探偵いないねぇ、困ったねぇ」
そこで、乱歩さんの気まぐれが発動する。
「君、名前は?」
「え?」
乱歩さんは手近にいた警察官を指さして呼んだ。
「じ、自分は杉本巡査です。殺された山際女史の後輩……であります」
年若い警官だ。真面目で素直な好青年といったところか。
腕には高そうな時計をしている。就職祝いに親にでも買ってもらったのだろうか。どこかで見たデザインだ。
すると、乱歩さんは杉本巡査の肩をポンッと叩いた。
「よし、杉本君、今から君が名探偵だ! 六十秒でこの事件を解決しなさい‼」
「へぇッ⁉」
突然の指名に、彼は頭を抱えて目をグルグルさせる。
「へっ、あ、えー⁉ いくら何でも六十秒は……」
「はい、あと五十秒~」
自分の懐中時計で時間を計る乱歩さんは、どうやら本気で「解決しろ」と言っているようだ。
敦が同情の眼差しを杉本巡査に向けている。
そこで、杉本巡査は「そ、そうだ」とあたしたちに言った。