第11章 元マフィアの二人
「やってみ給えよ。やれるものなら」
あたしの言葉を引き継いで、冷淡にも聞こえる声で太宰さんは言った。
氷よりも冷たい瞳が龍くんを捉える。
それに逆上したのは、龍くんの部下の樋口だった。
「たかだか探偵社ごときが! 我らはこの街の暗部そのもの! 傘下の団体企業は数十を数え、この街の政治・経済のことごとくに根を張る! たかだか十数人の探偵社ごとき、三日と待たずに事務所ごと灰と消える! 我らに逆らって生き残った者などいないのだぞ‼」
「「知ってるよ、そのくらい」」
あたしと太宰さんの言葉が重なる。
そうだ、よく知っている。
だって、4年前まではその闇にどっぷりと浸かっていたのだから。
「しかり。他の誰より、あなたたちはそれを知っている」
そして、龍くんの虚ろな黒い瞳があたしたちを捉えた。
「……元マフィアの太宰さん、そして詞織」
* * *
龍くんたちが去った後、あたしはしばらく彼らが去って行った方を見つめていた。
「詞織?」
「太宰さん……」
あたしは太宰さんの砂色のコートを掴んだ。
何かを察したのか、彼はあたしの肩に触れて、優しい声で「なんだい?」と聞く。
「太宰さん……あたし……あたしは……」
先を急かさない太宰さんに甘えて、少しずつ呼吸を整えて、ゆっくりと口を開いた。
「あたしは、少しは『良い人間』に……なれた……の、かな?」
あたしは太宰さんを見上げ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
そんなあたしに、太宰さんはクスリと小さく笑った。
「何を言うのかと思えば……」
そして、彼はあたしの両頬に触れ、真っ直ぐに見つめる。
あたしの紅い瞳を覗き込むように。