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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第11章 元マフィアの二人


「ほらほら。起きなさい、敦君。詞織一人じゃ三人も負ぶって帰れないよ」

「え? あたしが一人で抱えるの?」

 異能を使えば無理じゃないけど、せめて一人くらい手伝ってよ。

「ま……待ちなさい! 生きて帰すわけには……」

 女性があたしたちに銃口を向けた。
 あたしはそれを許さず、素早く指先を噛み、そこから血液を伸ばして女性の銃を斬り落とす。
 銃の先端がガシャンッとアスファルトに落ち、トリガーより後ろの部分だけが女性の手元に残った。

「太宰さんに銃口を向けるなんて……死ぬ覚悟はできてるの?」

 沸々と湧き上がる殺意を持て余すように、あたしの血液がうねる。
 すると、くぐもった笑い声が路地裏に響いた。

「くく……くくく。止めろ樋口、お前ではあのニ人には勝てぬ」

「芥川先輩! でも……」

 先輩、ということは、樋口という女性は龍くんの後輩か部下なのだろう。
 言い募ろうとする部下を押しとどめ、龍くんは咳き込んだ。

「太宰さん、今回は退きましょう……しかし、人虎の首は必ず僕(やつがれ)らマフィアが頂く」

「なんで?」

 あたしの後ろから太宰さんが尋ねると、龍くんは「簡単なこと」と答える。

「その人虎には、闇市で70億の懸賞金が懸かっている。裏社会を牛耳って余りある額だ」

「へぇ! それは景気の良い話だね」

 七十億……あまりの額の大きさに、あたしの頭は軽く容量を超えた。

「探偵社には、いずれまた伺います。そのとき、素直に七十億を渡すならよし。渡さぬなら……」

「探偵社と戦争でもするの? 龍くんに勝てるかな? 結局あたしに一度も勝てなかったのに」

「りゅ、龍くん?」

 樋口が戸惑ったようにあたしと龍くんを交互に見た。

「その呼び方は止めろと、何度も言ったはずだが。相変わらずの愚鈍な脳だな」

 ヒドイ。頭は確かに弱いけど。

「あの頃の僕と今の僕は違う。それに、あの頃の貴様と、ずっとぬるま湯に浸かっていただけの貴様もな」

「だったら……」
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