第11章 元マフィアの二人
ヘッドフォンで何かを聞きながら、お腹にあたしを乗せている太宰さんは、愛読書『完全自殺読本』を読んでいた。
それが、唐突に目を開く。
「どうしたの、太宰さん?」
ウトウトしていたあたしが目をこすって呼ぶと、太宰さんは「行くよ」とあたしの手を引いた。
「どこに?」
「久々の、再会だ」
何も分からないまま、あたしは太宰さんの後を追う。
やがて、人通りのない薄暗い路地裏に差し掛かると、戦闘音と同時に嗅ぎ慣れた血液の匂いが鼻をついた。
戦っているのは白虎に変身した敦と、久しぶりに見る少年。
国木田が戦いたくないと言っていた、芥川だ。
芥川龍之介……龍くんはあたしの元後輩、になるのかな。
あたしたちが駆けつけたときは、すでに虎と龍くんの『羅生門』が激突寸前だった。
地面には血だらけの谷崎とナオちゃん。ナオちゃんは大量の銃弾を浴び、谷崎はお腹付近を貫かれている。まだ息はあるみたいだけど、早く与謝野先生に診せないと、間に合わなくなるかも。
そんなことを考えている間に、太宰さんは一切の躊躇なく割って入った。
「はぁーい、そこまでー」
両手でそれぞれに触れる。
太宰さんの異能によって『羅生門』の黒獣は霧散し、虎は元の敦へと戻った。
敦は力を使い果たしたのか、ドサッと地面に倒れて深い眠りに落ちる。
「あなたたち、探偵社の! なぜここに⁉」
髪を上げているが、その女性は、先ほど会った依頼人。
龍くんも合わせて考えるに、彼女もマフィアの一員だろう。
どうやら罠にはめられたらしい。
「美人さんの行動が気になっちゃう質(タチ)でね。こっそり聞かせてもらってた」
「な……まさか⁉」
ヘッドフォンと小さな機械を取り出した太宰さんに、女性は慌てて襟やポケットを探る。すると彼女のポケットから、太宰さんの持つ機械と対になるだろう物が出てきた。
「盗聴器⁉」
いつの間に……と思って、あたしは思い出す。
太宰さんは最初から気づいていたんだ。
きっと、彼女の手を取って愛を囁いている隙に、盗聴器をしかけた。
「では、最初から私の計画を見抜いて……?」
さすが、太宰さん。
あたしはちっとも気づかなかった。
太宰さんは「そゆこと」と笑顔で言って、眠る敦の頬をペチペチと叩く。