第11章 元マフィアの二人
「こいつには遭うな。遭ったら逃げろ」
会うな、ではなく遭うな。
その写真に写っているのは、敦ともそんなに歳が変わらない、痩躯の少年。
「この人は?」
「マフィアだよ」
突然横から入って来た太宰さんに、敦はギョッとした顔をした。
「太宰さん、戻ってたの?」
太宰さんはあたしに「あぁ」と短く返事をして話を戻す。
「もっとも、他に呼びようがないからそう呼んでるだけだけどね」
「港を縄張りにする、凶悪なポートマフィアの狗(イヌ)だ。名は芥川」
マフィア自体が、黒社会の暗部のさらに陰のような危険な連中だが、その男は探偵社でも手に負えない。
そう、国木田は補足した。
「なぜ、危険なのですか?」
「異能力者だからよ」
敦の問いにあたしは答える。
「殺戮に特化した、すごく残忍な能力を持ってるの。軍警でも手に負えないくらい」
「俺でも、奴と戦うのはごめんだ」
写真を返してもらった国木田は、苦々しい声でそう締めくくった。
* * *
探偵社の事務所で、太宰さんはヘッドフォンをつけて歌をうたっている。
あたしはそんな彼の上に転がって、少しうとうとしていた。
太宰さんの調子はずれの歌は、独自で作詞作曲したらしい、『心中』の歌だ。
縁起でもない。
「太宰さん、何聞いてるの?」
「ん?」
でも、太宰さんはそう言っただけで答えてくれない。
「ふーんだ、別にいいも~ん」
ちなみに、後ろでは国木田が掃除機をかけている。
「おい、2人とも邪魔だ。退け」
だが、太宰さんはひらひらと手を振って無視した。それに合わせて、あたしも無視する。少し眠いし。
それがカチンッと来たのだろう。国木田の眉間に、いつも以上に深いシワが寄った。
「全く、なぜこんな奴らが探偵社に……我が理想にはこんな……」
バッと、国木田は太宰さんがしていたヘッドフォンを取り上げた。
そして。
「おい太宰! 仕事はどうした‼」
けれど、太宰さんはいつの間にか取り戻したヘッドフォンを耳にしていた。
あまりの素早さに、国木田はビックリしている。
太宰さんはあたしが落ちないように調整してくれて、ニッコリと笑って言った。
「天の啓示待ち」
* * *