第11章 元マフィアの二人
「ちなみに、懸賞金はいかほど?」
「参加するかい? 賞金は今……」
「70万よ」
あたしが口にした金額に、敦の目の色が変わった。
浮浪児で一文無しだったからか、お金には人一倍敏感みたい。
「当てたらもらえる? 本当に?」
「自殺主義者に二言はないよ」
太宰さんはきっぱりと宣言する。
こういうときの太宰さんは、本当に嘘を言わない。
仮に敦が「マフィア」と言い当てても、太宰さんはいつものように笑いながら「正解」と言うはず。
あたしは太宰さんの首から手を離し、彼の隣に椅子を引き寄せて座った。
そして、敦が挑むような眼差しで職業を上げ始める。
「サラリーマン」
「違う」
「研究職」
「違う」
「工場労働者」
「違う」
「作家」
「違う」
「役者」
「違うけど」
役者は照れるね、と太宰さんが頬に手を当てて嬉しそうにする横で、敦は唸っている。
どれもこれも、的外れもいいところだけど、太宰さんなら探偵やマフィアじゃなくても、役者で食べていけそう。
でも、やっぱり当てられる人はいないみたいね。
「だから、本当は浪人か無宿人の類だろう?」
国木田の言葉に、太宰さんは「違うよ」と笑った。
「この件で私は嘘など吐かない」
「そーゆーこと」
イー、とあたしは国木田に歯を見せる。
「ふふ、降参かな? じゃ、ここの払いはよろしく」
行くよ、と太宰さんに促され、あたしは彼について席を立った。
すると。
――ピピピピピ…
「うン?」
谷崎の携帯が着信を告げる。
「ハイ……え? 依頼人ですか?」
谷崎の応答に、全員の表情が引き締まった。
* * *
事務所に戻ったあたしたちは、椅子に座って話を聞く谷崎の後ろに陣取った。
依頼人は女性。
肩にかかるかかからないか程度の淡い髪色、少し気の強そうな目をしていて、パンツスーツを着こなしていた。
ずらっと並ぶあたしたちに何も言わず、女性は質問を待っている。
「……えーと、調査の依頼だとか。それで……」
話を切り出した谷崎を遮り、太宰さんが前に出て、女性の細い手を取った。