第11章 元マフィアの二人
「ええと」
谷崎も太宰さんと国木田のやり取りに何も言わない。
ツッコミを入れるだけの勇気がないから。
「改めて自己紹介すると……ボクは谷崎。探偵社で手代みたいなことをやってます。そンでこっちが」
「妹のナオミですわ」
泣きボクロが魅力的なナオちゃんが谷崎に抱きつくと、彼は「いてっ」と声を上げる。
「兄様のコトなら……何でも知ってますの」
ナオちゃんがゆっくりと妖しく目を伏せた。
その様子に敦は嫌な汗を流し始める。
「き、兄妹ですか? 本当に?」
まるで恋人のようにくっつく二人に、敦も疑問を持ったみたい。
まぁ、やっぱそうなるよね。
社内でも結構噂されてるし。
実は兄妹じゃないんじゃないか、って。
顔も全然似てない。
茶髪にタレ目でヘタレな見た目の谷崎と、少女ながらも妖艶な雰囲気を漂わせるナオちゃん。
敦の言葉に、「あら、お疑い?」と艶のある声で返した。
「もちろん、どこまでも血の繋がった実の兄妹でしてよ……?」
特に、と続けて、ナオちゃんはツ…と谷崎の身体をなぞり、服の裾から手を入れる。
「この辺りの身体つきなんてホントにそッくりで……ねぇ、兄様?」
妹の過剰なスキンシップに谷崎の顔が強張り、何とも形容しがたい表情をした。
「いや、でも……」
「この2人については深く追求しない。それが社の決まりだから」
というか、暗黙の了解?
そう言うと、敦は「あ……はい」と色々察した顔をした。
* * *
「そういえば、みなさんは探偵社に入る前は何を?」
シン…と静まり返る。
それに敦は首を傾げた。
「何をしてたと思う?」
「新入りは先輩の前職を当てる。定番でしょ?」
あたしはオレンジジュースのストローに口をつけ、太宰さんに続く。
そういうと、敦は親指を顎に当てて考え始めた。
「じゃあ……谷崎さんと妹さんは……学生?」
「おっ、当たった。凄い」
谷崎が手を叩く。
「どうしてお分かりに?」
「ナオミさんは制服から見たまんま。谷崎さんの方も……歳が近そうだし勘で」
そんな得意げに解説することでもないでしょ。
この2人に関しては、考えなくても当てられるし。
けど、太宰さんは「やるねぇ」と称賛した。
むぅ、面白くない。