第11章 元マフィアの二人
「すンませんでしたッ‼」
「へ?」
谷崎がテーブルに両手をついて、敦に深く頭を下げた。
敦の入社試験が無事に終了したあたしたちは、現在、探偵社の一階にある喫茶店でお茶をしている。
谷崎の謝罪の理由は、その入社試験のことのようだ。
「その、試験とはいえ、ずいぶんと失礼なことを」
「あぁ、いえ、いいんですよ」
あんな役をやらされてはいたけど、本来は気が弱くヘタレで、人が良いのが谷崎である。
「何を謝っているのよ、谷崎。何も間違ったこと言ってないでしょ。……っていうか、あんた何か敦に言ったっけ?」
「そうだぞ、谷崎。何を言ったとか関係ない。あれも仕事だ」
「国木田君も気障(キザ)に決まってたしねぇ」
太宰さんが眼鏡を押し上げる仕草をしながら眼光を鋭くして、「独歩吟客!」と国木田の真似をした。
「ばっ……違う! あれは事前の手筈通りにやっただけで……」
「そうそう。じゃんけんで負けたからね」
あれ、負けてたらあたしがやってたわけだし。
あたしはともかく、太宰さんにじゃんけんで勝とうなんて、1億万年早いのよ。
例の配役決めのクジも、国木田と谷崎の画策で、太宰さんに爆弾魔役のハズレを引かせるよう工作をしていたらしい。
それを先読みした太宰さんが、まんまとその裏をかいたわけだけど。
2番目に小さい数字を引いたのは、太宰さんの優しさである。
「ともかくだ」
ようやく調子を取り戻した国木田が、真面目な顔で口を開く。
「貴様も今日から探偵社が一隅。ゆえに周りに迷惑を振り撒き、社の看板を汚す真似はするな。俺も他のみんなも、そのことは徹底している。なぁ、太宰」
そんな国木田の崇高な言葉も虚しく、太宰さんは給仕の女性に目を奪われていた。
「あの美人の給仕さんに、『死にたいから首絞めて』って頼んだら応えてくれるかな?」
「黙れ、迷惑噴霧器」
「太宰さんの首なら、あたしがいつでも絞める」
やがて、国木田の説教がクドクドと始まり、国木田のゴツイ手が太宰さんの首を絞めた。
あたしはポケットに入ったチョコを食べながら静観する。
太宰さんに助けを求められるけど、美人な給仕さんに心を奪われた太宰さんにちょっと腹が立ったから無視してやった。