第10章 ヤキモチ少女
「どうしたんだい、詞織? 君も気が抜けた?」
「こんなの、何てことないもん」
「何だい? またヤキモチ?」
「ヤキモチなんて知らない」
――ビタンッ……ピッ
何事かと音の方へ振り返ると、敦が盛大に転んでいた。
よく見ると、敦が手をついた先には、爆弾魔から弾き飛ばしたリモコンが。
「「「「あ」」」」
爆弾のデジタル画面が、残り5秒をカウントし出す。
「あぁああぁああぁああぁッ⁉ 爆弾! 爆弾! あと5秒⁉」
社内にいる人間の顔が一気に青くなった。
このまま爆弾が爆発しては、社内の人間はただでは済まない。
騒ぐ社内の人間を見渡した敦が、意を決したように爆弾に覆い被さった。
「なっ」
その行動は予想外だったのか、太宰さんが珍しく息を呑む。
――ピッ
爆弾が残り2秒を告げた。
敦自身も自分の行動に頭がついて行っていないか、目を丸くして呆然としている。
それでも、爆弾から退く気はないようで……。
「馬鹿!」
慌てたように太宰さんが叫ぶのと、爆弾が残りゼロ秒を告げたのはほぼ同時だった。
* * *
敦がゆっくりと目を開く。
いつまで経っても爆発しないことに訳が分からないという顔をしていた。
あたしはそんな敦の様子を、太宰さんと国木田、そして爆弾魔の少年と見下ろす。
「やれやれ……馬鹿とは思っていたが、これほどとは」
「自殺愛好家(マニア)の才能があるね、彼は」
「太宰さん。別に、自殺しようとしたわけじゃないから、愛好家とは言えないと思う」
「へ? …………え?」
未だ状況を呑み込めない敦。
すると、1人の少女が空気をぶち壊すように、爆弾魔の少年に抱きついた。
「ああーん! 兄様ぁ! 大丈夫でしたかぁぁ⁉」
「痛だっ⁉」
抱きついた拍子に、ゴキッと不穏な音が聞こえる。
少年に抱きついたのは、爆弾魔に人質として囚われていた少女だ。
「いい、痛い! 痛いよ、ナオミ! 折れる折れる……っていうか、折れたァ‼」
ギャー、と声を上げる少年。
そのやり取りを見ても、まだ敦は把握できずに「……へ?」と間の抜けた声を出す。