第10章 ヤキモチ少女
「敦君、ダメ人間の演技上手いね。役者の方が向いてるんじゃないかな?」
「ダメ人間に関してだけはずば抜けてるけど、ダメ人間の役しかできないんじゃ、雇ってくれる劇団はないと思う」
「それもそうだ」
あたしが太宰さんとやりとりをしている向こう側では、爆弾魔の説得を試みている敦が、「虫けらだって生きている!」と言っていた。
「ね、だから爆弾捨てて、一緒に仕事探そう」
敦が虚ろな目で爆弾魔に語りかけると、その気配に爆弾魔が怖気づいた。
「え、いや、ボクは別にそういうのでは……」
爆弾魔の注意が逸れる。
今だ。
太宰さんが、爆弾魔を前に待機していた国木田に合図を送った。
「手帳のページを消費するから、ムダ撃ちは嫌なんだがな……!」
――異能力『独歩吟客』
国木田が手帳を開き、ペンを走らせる。
鉄線銃(ワイヤーガン)と書かれたページを破った国木田がそれに念を込めると、手帳のページは書かれた通り、鉄線銃へと姿を変えた。
手帳のページに書いた物を具現化する――それが国木田の異能だ。
具現化できる物はおよそ手帳のサイズに限るらしいけど、その範囲であり、具現化する物の構造を国木田が理解していれば、何でも具現化できるらしい。
国木田は鉄線銃の銃口を爆弾魔に向け、少年が持っている爆弾のリモコンを狙って発射した。
――ドンッ
発射されたワイヤーが見事リモコンを掠めとると、国木田は素早く爆弾魔に近寄り、少年の顎を蹴り飛ばす。
あっという間に、国木田が爆弾魔を床に押さえつけ、拘束した。
「一丁あがり~」
何もしていないはずの太宰さんが、そう言って事件を締めくくった。
爆弾のデジタル画面は動いていない。
そのことに、敦がホッと安堵しているのを見た。
敦が太宰さんを見ると、太宰さんが親指を立てて微笑んだ。
気が抜けたのか、敦はフラフラとしながらも、締まりのない顔で手を上げる。
それが気に入らなくて、あたしは太宰さんの腰にギュゥと腕を回した。