第10章 ヤキモチ少女
「探偵社に私怨を持つだけあって、社員の顔と名前を調べてる」
「どうするの? 社員のあたしたちが行っても、警戒されるだけじゃない?」
「そうだね。さて、どうしたものか……」
そう言って、太宰さんは敦を見る。
一拍遅れて、あたしも敦を見た。
ニヤァっと嫌な笑みを浮かべる太宰さんを見て、あたしは太宰さんの考えを察する。
今の今まで黙っていた敦の顔が引きつった。
* * *
「や、やややや、やめなさーい! 親御さんが泣いてるよ‼」
新聞紙を丸めて敦が叫ぶ。
「な、何だ、アンタッ!」
逆上した爆弾魔に敦がビビッて仰け反った。
――数分前。
「社員が行けば、犯人を刺激する。となれば、無関係で面が割れていない君が行くしかない」
「むむ、無理ですよ、そんなの! 第一、どうやって……」
当然のごとく拒否する敦。
「犯人の気を逸らせてくれれば、後は我々がやるよ」
そう、気さえ逸らせば、後はどうにでもなるわけだからね。
「ダメ人間の演技でもして、気を引いてればいいんじゃない? 得意でしょ」
そう言ってやったけど、落ち込むどころか「ムリムリ」と手を振った。
それに畳みかけるように、太宰さんが悪戯っぽく微笑む。
「信用し給え。この程度の揉め事、武装探偵社にとっては朝飯前だよ」
――現在。
「ぼぼ、僕は、さ、騒ぎを、き、聞きつけた一般市民ですっ! いい、生きてれば良いことあるよ‼」
「誰だか知らないが、無責任に言うな! みんな死ねばいいンだ‼」
まぁ、そうなるよね。
あたしと太宰さんは植木の陰からしばらく様子を見ることにする。
「ぼ、僕なんか孤児で、家族も友達もいなくて、この前その院さえ追い出されて、行く宛ても伝手もないんだ!」
「え……いや、それは……」
あぁ、爆弾魔が引いてる。
んー、これはいい仕事してるってことかな?
敦はさらに畳みかける。
「害獣に変身しちゃうらしくて、軍警にバレたらたぶん縛り首だし、とりたてて特技も長所もないし、誰が見ても社会のゴミだけど、自棄にならずに生きてるんだ‼ だ、だだ、だから……」
あそこまで卑屈だと、引くより以前に感心する。
それだけ、否定されて生きてきたんだろうけど。
あたしはあそこまでならなかったなぁ。
育った環境とか、生まれ持った性格とかかな。