第10章 ヤキモチ少女
「この非常事態に何をとろとろと歩いておるのだ! 早く来い‼」
「国木田、朝からうるさい。あたし、テーケツアツなんだから。そんなに騒がないで」
「国木田さんだと何度言えば分かるんだ、この小娘が」
「ご、5歳しか違わないもん! 小娘じゃないもん‼」
もう17歳なんだから!
「朝から元気だなぁ。あんまり怒鳴ると悪い体内物質が分泌されて、そのうち痔に罹るよ」
「何、本当か⁉」
「メモしておくといい」
太宰さんに言われた通り、いつもの手帳に書き込んでいく国木田。
怒鳴ると痔に罹るんだ……気をつけておこう。
でも、太宰さんは「嘘だけどね」と笑顔で言った。
なんだ、嘘か。
朝はいつもイライラするから気をつけておこと思ったのに。
――ドカッスカッバキッゴキィッ
やられる太宰さんを、あたしと敦は遠い目で見ていた。
やがて、その様子を傍観していた敦が口を開く。
「あの……『非常事態』って?」
言われてようやく我に返る国木田。
太宰さんが、目だけ死んでる。
身体は死なないけど。
あれだけやられても死なないんだから、ちょっと首吊ったり、川に入ったり、ドラム缶に嵌まったりしたくらいじゃ死ねないわけよね。
「そうだった! 探偵社に来い! 人手がいる‼」
「何で?」
首や腰を押さえつつ立ち上がる太宰さんに、国木田は切迫した声で答えた。
「爆弾魔が、人質を連れて探偵社に立て篭った‼」
* * *
ガタガタと震えながら、爆弾魔の少年はリモコンを持って、探偵社の一番奥にある机に座っていた。
床には手足を縛られ、猿ぐつわを嚙まされた少女。
目に大粒の涙を浮かべて怯えている。
「嫌だァ……もう嫌だ……全部お前らのせいだ……『武装探偵社』が悪いンだ!」
爆弾魔は人質の肩を引き寄せて声を張り上げた。
「社長はどこだ、早く出せ! でないと……爆弾でみんな吹っ飛んで、死ンじゃうよ‼」
それをあたしたち4人は、植木の陰に隠れて見ていた。