第10章 ヤキモチ少女
それからしばらく歩き、敦はふと思い出したように太宰を見上げる。
「ところで、今日はどこへ?」
「うん。君に仕事を斡旋(あっせん)しようと思ってね」
「本当ですか!」
「伝手の心当たりがあるから、まずは探偵社に行こう」
……面白くない。
とっても面白くない。
嬉しそうにする敦を押しのけて、あたしは太宰さんの腕にギュゥッとしがみつく。
「どうしたんだい、詞織?」
驚いたように少し目を丸くする太宰さんに答えず、あたしはキッと敦を睨みつけた。
「太宰さんの1番はあたしなんだから! 勘違いしないでよね‼」
指をさしてそれを敦につきつけると、敦は目をキョトンとさせる。
ちょっと良くしてもらったからって、のぼせ上らないでほしい。
太宰さんに何の思惑があるのか分からないけど、大した意味なんてないんだから……たぶん。
知り合った少年が野垂れ死にするのは気分が悪いなぁとか、そんな意味しかないんだから……たぶん。
それがたまたま異能力者で、探偵社の社員の基準をクリアしてたから、ついでに社員にしてあげようとか、そんなことしか考えてないんだから……たぶん。
頭の中であれこれこじつけていると、太宰さんが噴き出した。
「あははっ。何だい、詞織。ヤキモチかい?」
「ヤキモチなんて知らないもん」
よしよしと頭を撫でてくれる太宰さん。
こんなんでやり込めると思わないでほしい。
「あの……僕は……」
「気にしなくていいよ。低血圧で、朝はいつもこんな調子さ。それに、ちょっと拗ねてるだけだから」
低血圧なのは間違いないけど。
「すみません。僕のせいですよね」
「むぅ、思い上がり。ヤキモチなんて知らないもん。テーケツアツって言ってるでしょ」
自分のせいだと思っていることが思い上がりなのだ。
落ち込む敦に、太宰さんは胸を張った。
「とにかく、全て私に任せ給えよ。我が名は太宰。社の信頼と民草の崇敬を一身に浴す男」
だが、それに被せるように怒号が響く。
「ここにおったかァ! この包帯無駄遣い装置‼」
国木田だ。
「……国木田君。今の呼称はどうかと思う」
ホータイムダヅカイソーチなる呼び方に傷ついた太宰さんだけど、あたしは機嫌が悪いので庇わないことにした。
ある意味間違ってないし。