第10章 ヤキモチ少女
「こうした自殺法があると聞き、早速試してみたのだ。が、苦しいばかりで一向に死ねない。腹に力を入れてないと徐々(じょじょ)に嵌まる。そろそろ限界」
「はぁ……詞織さんは助けないんですか?」
「自殺法だよ? 自殺って何のためにするか知ってる? 死ぬためにするの。だったら助ける必要はないでしょ?」
「じゃあ、なぜそこに?」
「自殺が成功する直前に太宰さんを殺すため」
「…………」
今度は敦が黙った。
「ま、まぁ、詞織さんの言う通り自殺なわけですから、そのままいけば……」
「苦しいのは嫌だ。当然だろう」
眉を寄せ、険しい顔で彼は言う。
敦は理解できないという顔をしつつも、「なるほど」と言って、結局太宰さんを助けた。
* * *
「同僚の方に救援を求めなかったんですか?」
太宰さんはどこへ行くかも言わずに、あたしと敦を連れて歩く。
行き先は『武装探偵社』だけど、敦はそのことを知らない。
「求めたよ。でも、私が『死にそうなのだ』と助けを請うたとき、何と答えたと思う?」
「死ねばいいじゃん」
「ご名答」
――助けて。
――《何で?》
――死にそう。
――《良かったじゃん》
――そうだけど。
――《じゃあね(プツッ)》
あたしは太宰さんと同僚の会話を思い出す。
「そういえば、詞織さんは何を読まれていたんですか?」
「武器辞典。参考のために」
あたしはそれを敦に差し出す。
中をパラパラとめくって「うわぁ」と敦が感歎の声を上げる。
「凄いですね。武器ってこんなに種類があるんだ」
「だいたい使う武器は決まってるけど。世間に知れ渡っているってことは、それだけ扱いやすいってことだから」
「でも、何でこんな本を?」
「あたしの異能に必要だから。絶対じゃないけど、あった方が便利」
あたしの異能はもともと、中距離からの物質操作。
それを万能型にしているのは、血液で物を形成して扱うことができるから。
だから、古今東西あらゆる武器を頭に入れ、その都度最適な武器を繰り出していく必要がある。
あたしは敦の手から本を取り上げ、懐に仕舞った。