第10章 ヤキモチ少女
あたしはこの日、探偵社の宿舎の前で本を読んでいた。
もう、何度も読み返した本で、少しくたびれている。
あたしも特に好きなわけじゃないけど、何度も読み返して内容を頭に入れておきたい。
もう入っているけど。
あたしはドラム缶に背を預け、朝の澄み渡った空を見上げた。
ちなみに、そのドラム缶の中には、敬愛する太宰さんが。
「助けないの?」
「助けない」
「私、死んじゃうよ?」
「死ねばいい」
「あれ? 私のことは君が殺すんだよね?」
「大丈夫。本当に死にそうになったら、その前に殺す」
「…………」
太宰さんが黙った。
やがて、太宰さんはのろのろとした動作で携帯を取り出す。
誰に掛けたのかな?
あたしが首だけで振り返ると、太宰さんはいつもの調子で、電話の向こうに話しかけた。
「やぁ、敦君。新しい下宿寮はどうだい? よく眠れた?」
世間話を始めた相手は敦のようだ。
あたしが読書を再開する傍で、会話が漏れ聞こえてくる。
「《お陰様で……こんな大層な寮を紹介いただいて》」
「それは良かった。ところで頼みがるのだが」
助けて、死にそう。
そう、太宰さんが言った。
あーあ、ビックリするんじゃない? こんな姿を見たら。
案の定、太宰さんに言われた通りに寮から出た敦が、太宰さんの姿に唖然とする。
ドラム缶を石で固定し、そのドラム缶にお尻から嵌まっている太宰さんに。
敦の召喚に成功した太宰さんは、「やぁ、よく来たね」と挨拶もそこそこに言った。
「早速だが助けて」
「え……? 何ですか、これ?」
「何だと思うね?」
「朝の幻覚?」
「正解」
「違う」
正解と答えたのはあたしで、不正解と答えたのは太宰さんだ。
「あれ? 詞織さん、いたんですか?」
「いたよ、悪い?」
正直、あたしは敦に苦手意識を持っている。
何がどうというわけではないけど、あまり好きじゃない。
太宰さんが拾ったからかな?
何だか、特別に目を掛けてるように見えるから、ムカつく。