第8章 理想を愛する男
「チョコレートくらい、買ってきたらいいじゃないか」
今度は、白衣を着た女性が口をはさむ。
武装探偵社の社員兼専属医の与謝野晶子。
男尊女卑を嫌い、男女平等の主義を掲げる女性。治癒能力の異能を持っているけど、『瀕死の人間しか治せない』せいで、探偵社では怪我をしてはいけないと言われている。
まぁ、あたしには関係ないけど。
今のところ、与謝野先生に世話になるような大きな怪我はしてない。
国木田はたまにお世話になってるみたいだけど。
「ん~、そうだなぁ……」
「チョコレートを買いに行くくらいなら、報告書を仕上げろ」
「国木田の鬼! そんなに言うなら、国木田が買って来てよ!」
「国木田さんだ! それに、『出来の悪い後輩にチョコレートを買って来る』とは、俺の予定に書いていない!」
「あ、駄菓子がなくなった。国木田、駄菓子買って来て」
「戸棚に……」
「無い」
「…………」
* * *
国木田は『理想』と書かれた手帳に何かを書き込んでいる。
「……何してるの?」
「予定の調整だ」
「ふぅん、国木田も大変ね」
「国木田さんだ」
入社してずっと言われてるけど、あたしには聞く気がない。
だって、国木田は太宰さんの玩具(おもちゃ)だもの。
玩具に対して『玩具さん』なんて言わないでしょ?
中也も太宰さんの玩具だったけど、中也の場合は体術を教えて貰っていたからね。
欠片くらいは敬意を払っていたと思うよ。
国木田の体術も凄いけど、中也に習った体術とは系統が全く違うし。
体術だけならあたしより国木田の方が強いけど、異能ならあたしの方が上だと思う。
「せっかくだから、太宰さんも一緒に行こう」
あたしは外へ出て、一階の喫茶店に入った。
「太宰さーん」
「太宰さんなら先ほど、女性のお客さんと一緒に出て行きましたよ」
親切な給仕さんが教えてくれる。
「…………」
太宰さんが?
女の人と?