第7章 殺さない男
「心配しているんだろう。太宰も少し控えたらどうだ?」
マスターにお酒を頼んだ作之助があたしの肩を持ってくれる。
「作之助、大好き‼」
「そうか」
作之助の首にギュゥと腕を回すと、彼はよしよしと背中を撫でてくれた。
「あ、織田作ずるいよ! 詞織、織田作より私の方が好きだろう? ね?」
さぁ、帰っておいで! と、太宰さんは半ば必死に懇願する。
「ふ~んだ! あたし、大きくなったら作之助と結婚するもん! 太宰さんなんか知らない‼」
「まったく、このコントはいつまで続くのでしょうか?」
「作之助と結婚したら、安吾はあたしのおシュウトメさんにしてあげる!」
「僕まで巻き込まないでください! だいたい、君は姑の意味を分かっているんですか? 僕は織田作さんの母親ではないし、そもそも性別まで変わってるじゃないですか‼」
え~、でも、パパって感じじゃないし。
パパはどっちかっていうと、太宰さんの方かな?
安吾にはやっぱりママの方が似合ってると思うけど。
「ダメだよ、詞織! 私は認めないからね! ほら、ちょっと怪我しただけだから! ちょっと擦りむいただけだから‼」
一応、あたしは太宰さんの部下なんだけど。
五大幹部の一人があたしにすがりつく。
それは、マフィアも真っ青になるような光景だった。
「……詞織、そろそろ許してやれ。太宰も反省している」
「むぅ……作之助がそう言うなら」
あたしはようやく、太宰さんのところまで戻ると、彼はあたしを力いっぱい抱きしめてくれる。
「まったく、二度と私を嫌いだなんて言うんじゃないよ。嘘だと分かっていても辛いんだから」
「……はぁい」
しぶしぶ頷いた。
あたしだって、太宰さんに辛い顔をさせたいわけじゃないし。
「さぁ、飲み直そうか。マスター、チョコレートとジュースのおかわり」
「太宰さん、あたしもお酒飲みたい!」
「ダメだよ、詞織。君は未成年だろう?」
「太宰さんだって未成年だもん!」
「私はいいのだよ。なんたって、幹部だからね」
「幹部でも、未成年の飲酒は法律で禁止されていますよ」
「マフィアに法律は関係ないさ」
「まぁ、それもそうだな」