第7章 殺さない男
こんな日が、いつまでも続くと思っていた。
ずっとずっと……。
でも、間もなくして、それは終わりを告げる。
作之助が、死んでしまったから――……。
* * *
「う……っ、ひっく、ふぇ……っ」
死んで動かなくなった作之助を前に、あたしは涙が止まらなかった。
そんなあたしを胸に抱きしめながら、太宰さんも目を伏せる。
やがて、感情のこもらない声で言葉を紡いだ。
「詞織、戻るんだ」
「ヤだ!」
「詞織……」
あたしは太宰さんの肩口に顔を押しつけて、グリグリと首を振った。
「あたしたちに嘘吐いてた安吾も、作之助を見捨てた首領(ボス)もキライ!」
「そんなことを言ってはいけないよ。組織を抜けることは背信行為だ。捕まれば間違いなく殺される」
「太宰さんだって戻る気なんかないくせに」
作之助はあたしたちに……太宰さんに言った。
――「人を救う側になれ。どちらも同じなら、良い人間になれ。そのほうが、幾分かは素敵だ」
太宰さんは答えた。
――「……分かった。そうしよう」
太宰さんは平気で嘘を吐く。
でも、あれは作之助を安心させるための、口先だけの答えじゃなかった。
太宰さんはきっと、すぐに動く。
もう、ポートマフィアには戻らない。
あたしはそう確信していた。
「……あたしも連れて行って」
「駄目だ。君を巻き込むことはできない」
太宰さんは否定しなかった。
だから、あたしは絶対離さないつもりで、太宰さんの外套を掴む。
やがて太宰さんは、「はぁ……」と長いため息を吐いて、あたしを離した。
「初めて会ったときと同じだ。選択のやり直しはできない。もう、後戻りはできないよ。それでもいいのかい?」
あたしは一つ頷く。
あたしは選択を後悔したことなんて一度もない。
あたしは自分の選んだ道を後悔しない。
マフィアに入ったことも。
太宰さんの手を取ったことも。
「太宰さんを殺すんだもん! 太宰さんを殺すのはあたしなんだから! そのためにずっと、ずっと太宰さんと一緒にいるんだもん‼」
だから、「さよなら」なんて言わないで!
すると、太宰さんはあたしの涙に口づける。
「……仕方のない子だ」
そう言って、太宰さんはもう一度あたしを抱きしめてくれた。