第7章 殺さない男
「幼くともマフィアはマフィアだからね。生温い稽古をつけていては、この世界では生きていけない。いくら情報員でも、安吾だって分かっているはずだよ」
「それはそうですが……」
2人がそんな話をしていると、新たな客の来店を告げるベルが鳴った。
店内へ続く階段を下りて来た人物を認めて、あたしは椅子から飛び降りる。
赤茶色の髪を持つ長身の男に、あたしは飛びついた。
「作之助! 会いたかった‼」
「あぁ、詞織。太宰も……安吾は久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
織田作之助。ポートマフィアの最下級構成員。
でもあたしは、太宰さんが最も信頼している男だと思う。
銃の腕は神業級で、どんな人間も作之助には敵わない……らしい。
あたしはよく分からないけど、太宰さんが言うのだから間違いないと思う。
何があっても『絶対に人を殺さない』のが作之助の信条。
命令されれば誰でも殺すあたしとは真逆。
でも、あたしは作之助が好きだ。
優しく撫でてくれる手は、同じ『撫でてくれる』でも太宰さんとは違う。
何だろう? 2人とも優しく撫でてくれるけど。
太宰さんの手は細いんだけど、作之助の手は太宰さんより大きくて固い。
いつものメンバーが酒場に揃った。
ポートマフィアの幹部とその部下と、情報員と、最下級の構成員。
本来なら出会うことすらないはずのあたしたちは、約束なんてしなくても、こうして集まることがある。
「詞織、戻っておいで?」
太宰さんが軽く腕を広げてあたしを呼んだ。
でも、虫の居所が悪いあたしはプィッとそっぽを向く。
「イ~だ! 自殺しようとする太宰さんはキライだもん‼」
イ~ッとすると、太宰さんは『ガーン!!』と頭を抱えた。
「どうしたんだ、太宰。ん? お前、傷が増えてるな」
「大方(おおかた)、自殺にでも失敗したのでしょう」
作之助があたしを抱っこして、太宰さんの隣に座らせてくれる。
その隣に作之助が座り、さらに安吾も自分が座っていた席に戻った。
「詞織~、そんなに怒らないでくれ給えよ~」
「そうですよ、詞織。太宰君の自殺癖は、今に始まったことではないじゃないですか」
「そうだけどぉ……」