第7章 殺さない男
初めて太宰さんと会った頃のあたしと今のあたしは、まるで別人みたいなんだって。
太宰さんも中也も首領(ボス)も、みんなが口を揃えて言う。
あたしにはそんな自覚はないけど、みんなが言うんだったらそうなのかもしれない。
確かに、4年という年月は、人が変わるには充分な時間だと思う。
あたしが変われたのは、きっと太宰さんのおかげ。
それが良いことなのか悪いことなのかは分からないけど、あたしは構わない。
だって、太宰さんは今のあたしだって可愛がってくれるもの。
* * *
あたしは、太宰さんの行きつけの酒場でオレンジジュースを飲んでいた。
チョコレートも美味しい。
太宰さんはあたしの隣でお酒を飲んでいる。
「……傷はもういいのかい?」
「うん、治った」
「そうかい? それは良かった。君の白い肌に傷でも残ったら大変だ」
「あたしの身体に傷が残るわけない」
あたしは傷の治りも早ければ、どんな傷も残らない。
それは太宰さんも分かっているはずだけど。
あたしは太宰さんの頬に手を伸ばす。
そこには、手当された新しい傷が。
「傷の心配をしなければいけないのは、太宰さんの方じゃない」
「あぁ、それで機嫌が悪いのかい?」
あたしの行動で察したらしい太宰さんがクスクスと笑う。
分かってるくせに。
「2人の世界に入るなら、僕は帰りましょうか?」
ため息を吐きながら眼鏡の男が口を開いた。
「気にする必要はないよ、安吾」
「そうよ、久しぶりに会えたのに」
坂口安吾。ポートマフィア専属の情報員。
龍頭(りゅうず)抗争の真っ最中、上からの命令で尋ねた先にいたのが安吾だった。
その頃の太宰さんはまだ幹部じゃなかったけど、次期幹部の最有力候補で。
まぁ、出会いは最悪だったけど、何だかんだと一緒に飲む間柄になった。
安吾はあたしの顔をじっと見て、太宰さんに視線を移す。
「太宰君、もう少し加減をしてあげたらどうです? 詞織はまだ幼い少女なんですよ?」
安吾は立ち上がってあたしの顔に触れ、腕を取って袖を少しまくり上げた。
彼の触れた頬や腕には、まだ薄っすらと傷が残っている。
明日には綺麗に消えると思うけど。