第40章 『はじまり』のおわり
頭の中がぐちゃぐちゃで、自分が何を言いたいのかも、自分が何を考えているのかも分からなくなってきた。
そんなあたしが分かったのか、太宰さんは「詞織」とあたしの名前を優しく呼ぶ。
その言葉が、あたしは一番好きだった。
太宰さんが呼ぶ、あたしの名前。
それは、どんな尊い言葉よりも価値があると思う。
「ねぇ、詞織。君は私のためならば、私の望むもの総てを捨てられると言ったね」
あたしは黙って肯定した。
太宰さんが望むなら、あたしは躊躇うことなく世界すら手放す。
そして、あたしは後悔などしないのだろう。
「私も同じだよ」
「……え?」
「私も同じだ。詞織……君のためならば、私は世界を滅ぼすことだって厭わない。もし、世界中の人間が君を誹謗し、中傷し、君の心を蔑ろにして苦痛を与えたのなら、私はその人間を殺し、世界を滅ぼすだろう。何の躊躇いもなく、ね」
そんな物騒なことを口にして――そんな、歪な愛の告白を口にして、太宰さんはあたしの両頬に手を添え、引き寄せるようにあたしを立ち上がらせた。