第40章 『はじまり』のおわり
「分かるかい、詞織? それとも、君にはやはり、はっきり言わないと分からないのかな?」
そんな君の愚かさも、私には愛おしいのだけど。
太宰さんはそう続けて、あたしを抱きしめた。
「狂おしいほどに君を想ってる。君を手放すなんて、考えただけでもおかしくなってしまいそうだ」
痛いくらいに抱きしめられ、あたしの胸は同じくらいに締めつけられた。
「……あたしのこと、嫌いにならないの?」
あたしのこと、捨てないの?
「ならないよ。君が私なしでは生きられないように、私だって君なしでは息もできない」
ねぇ、詞織……と縋るように呼ばれ、あたしは身を震わせた。
「君は私が『好き』だろう? それがどんな形でもいい。君の気持ちが私に追いつくまで、私は待つよ」
君が私を殺す、その日まで――……。
唇が触れる。
この幸福を、誰にも邪魔されたくない。
この幸福を、誰にも渡したくない。
そんな気持ちに名前をつけるとしたら、それはどんなものなのだろう。
いつか分かる日が来たのなら、あたしは太宰さんの名前を呼べるのだろうか――……。
自分の中に芽生えた微かな変化に身を委ね、あたしはそっと、太宰さんの背中に手を回した。