第40章 『はじまり』のおわり
「そうまでして、芥川君と虎の少年を引き合わせた理由は何かね?」
「確かめたかったからさ。芥川君は単独でも充分破壊的だけど、本来は中・後衛で真価を発揮する異能者だ。敦君のように、速度とタフネスを持つ前衛を補強してこそね」
確かめたかった?
今回、二人は初めて共闘した。
太宰さんが仕組んだのは、二人が白鯨で鉢合わせたことだ。
共闘したのは、二人の意志。
互いに反発し合い、互いを理解できないはずの二人が、どういう経緯で共闘に至ったのかは分からない。
けれど、太宰さんはそこまで読んでいたのだろうか。
「いつから、そんなこと考えてたの?」
育った環境も、現在の立場も、思考も、性格もまるで違う。
片や、否定されながら育ち、人を助けることに生きる価値を求める者。
片や、殺戮の中で育ち、相手を圧倒する強さこそ全てであると信じる者。
共闘できたことすら信じられないくらいなのに。
一度目を伏せた太宰さんは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「敦君と、最初に会ったときから」
あたしは息を呑む。
敦と初めて会ったときのことが、断片的に頭を過った。
ボロボロの少年、暗い倉庫の中で巨体の白虎に変身した姿。
宿舎の部屋を与え、偽の爆弾騒ぎで彼の本質を知り、探偵社に迎えた。
あのときから、ずっと……?
「あたしじゃ……ダメなの?」
「確かに詞織……君と芥川君の異能は似ている。けど、似ているだけで全く別の異能だ。君の代わりを芥川君が務められないように、芥川君の代わりを君が務めることはできないよ」
太宰さんの言葉に、あたしはグッと拳を握りしめ、唇を噛んだ。
その拳に優しく触れ、太宰さんが微笑んでくれる。
けれど、次の瞬間には、その瞳に真剣な色を宿して口を続けた。
「新しい世代の双黒(コンビ)が必要だ。間もなく来る“本当の災厄”に備えるためにね」
「本当の、災厄……?」
あたしに見えないものが、太宰さんの目には映っているのか。
広津さんはただ、黙って太宰さんの言葉を聞いていた。
「ここから先の展開は、私にも見えない。けれど、奴はすでに動いているはずだ。かつて、私が一度だけ会った、あの“魔人”は必ず――」
まだ訪れない未来を見据えるように、太宰さんは微かに目を細めた。
* * *