第39章 光を夢見る少女
「確かに、厳しすぎる結末だね。でも、そうしなくてはならない理由があったのだよ」
混乱する敦の前に、見慣れた和装の男性が現れた。
探偵社社長の福沢 諭吉である。
太宰の隣に立った福沢は、ただ黙って腕を組んだ。
「社長の異能――『人上人不造(ヒトノウエニヒトヲツクラズ)』は自分の部下、つまり、探偵社員にのみ発動する」
効果は 、“異能の出力を調節し、制御を可能にする” 制御能力。
敦が腕や足のみなら虎の異能を操れるようになったのは、探偵社に入ったからだった。
「そして、鏡花ちゃんは入社試験に合格した。衝突の直前にね。それがどういうことか、分かるかい?」
一拍置いて、敦はその答えに辿り着く。
ジャラッ…鎖の音に気配に振り返れば、背後に『夜叉白雪』を従えた鏡花が、ボロボロの姿で立っていた。
「夜叉の刀で鎖を切って、脱出した」
それを最後まで聞くより早く敦は駆け出し、鏡花の小さな身体を抱きしめる。
痛い、と抗議しながらも、鏡花は彼を振りほどこうとはしなかった。
「悪かったね、二人とも、秘密にして。そうでないと、入社試験の審査にならなかったから」
この作戦の前に太宰と乱歩が話していたことを思い出す。
――「最後は山?」
――「海だ」
「もしかして……最初から全部……?」
その言葉に、太宰はニコッと微笑んだ。
「街は救われた。敵は打ち倒され、鏡花ちゃんは合格した。不安もあったが、上手くいって良かったよ」
そこへ、「太宰さん」と誰かが口を挟んだ。
声の主を振り返れば、芥川がヨロヨロと立ち上がるところだった。
「もはや、邪魔する者はない。今日こそ……僕(やつがれ)の力を……」
その言葉に、太宰はあからさまに呆れたため息を吐く。
庇うように前へ出ようとした詞織を制し、彼は芥川へ近づいた。