第39章 光を夢見る少女
「放せ! 鏡花ちゃん、聞いてくれ‼」
ありがとう……ごめんなさい。
そんな声が、聞こえた気がした。
――ドゴオォオッ
白鯨に小さな無人機が衝突する。
衝突より早く、白鯨からパラシュートで脱出した三人は、港の海に着水した。
海から顔を出せば、無人機が炎を上げながら落下していく姿が見える。
同時に、大きな水しぶきを上げて、白鯨が港の海に落下した。
「鏡花ちゃあぁああん!」
敦の叫びにも取れる呼びかけが、ヨコハマの港に響く。
そこへ、芥川が咳き込みながら陸へ上がり、メルヴィルに肩を借りながら、敦も上がった。
「そんな……どうして、彼女が……どうして……」
鏡花を助けられなかった落胆から力なく呟く敦だったが、芥川の表情も暗かった。
ポートマフィアにいた鏡花は、元々は芥川の部下だったのだ。
「鏡花……愚か者め。光に生きる希望さえ抱かなければ……無駄に散らずに済んだものを」
突き放すような芥川の言葉に反論しようとした敦だったが、結局、何も言わずに顔を伏せた。
己の無力さに涙を流す敦の耳へ、数人の足音が届く。
「これで良かったのだよ、敦君」
顔を上げれば、そこには砂色のコートを翻す青年と、その背中に隠れて白いワンピースを着た少女が立った。
「太宰さん、詞織さん……」
港に現れたのは、太宰 治と櫻城 詞織だった。
「鏡花ちゃんは自分に克(か)ち、街を救った。探偵社に相応しい高潔さでね。彼女は望みを叶えたんだ」
「でも……でも! 彼女が死ななくちゃならない理由なんて、どこにもない……!」
グッと拳を握る敦に、太宰はさざ波一つ立たないような静かな声音で続ける。