第39章 光を夢見る少女
「そうか……! すごいよ、鏡花ちゃん。これで皆助かる!」
ホッと安堵の表情を浮かべた敦は、すぐにメルヴィルを振り返った。
「脱出器具の準備を頼みます!」
自身の所属する長が敗けたからか。
もしくは、自身の異能が街の人々を殺さずに済むからか。
敦の言葉に、メルヴィルは黙って従った。
「鏡花ちゃん、君も早く脱出するんだ」
『無理』
「……え?」
呼びかけた敦を、鏡花は短い言葉で否定した。
『私は虜囚(りょしゅう)。足首が鎖で繋がれているから、脱出装置のある部屋まで行けない』
「そんな……じゃあ……」
『私のことは諦めて』
「駄目だ‼」
自分の最期すら冷静に語る彼女に、敦は操作盤へ拳を打ち据える。
「そんなの駄目だ! 軌道を変えるんだ!」
何か他にも方法があるはずだ。
彼女の命を使わずに済む方法が。
必死で脳を捏(こ)ねくり回しても、そんな方法が出るはずもない。
『これまで私は、一片の光もなかった。でも、今日分かった。私にも選択肢はあると』
その声は、今まで聞いた鏡花の声よりも希望に満ち溢れていた。
『命を犠牲にして皆を助ければ、きっと私は入社試験に合格できる。探偵社員になれる』
なら、惜しくはない。
「止めるんだ‼」
だが、無人機が迫っているのが、白鯨の操舵室の大きな窓から見えていた。
「突っ込んでくる! 行くぞ!」
メルヴィルが叫ぶ。
――ゴオオォォォ
迫る無人機の音に、芥川が敦の首根っこを掴んで、力任せに引きずった。