第39章 光を夢見る少女
「本当のことを言うとね、探偵社には君を救助する理由がないのだよ」
なぜなら鏡花はまだ社員ではない。入社試験を通過していないから。
探偵社員として、見知らぬ人でも助ける、心と強さを持っているかを試す為のものだ。
『……私には、きっとその試験は……』
グッとあたしは奥歯を噛み締めた。
思うことは同じようで、沈黙した太宰さんは冷たい声で言葉を紡いだ。
『……気に入らないな。“元殺し屋に、善人になる資格はない”。……君は本気でそう思っているのか?』
太宰さんは懐からマッチ箱を取り出した。
かつて、作之助や安吾たちと集まっていたバーのものだ。
――俺は小説家になりたかった。
何があろうと絶対に人を殺さない信条を持つ、奇妙なマフィア……その正体は、小説家を夢見る男だった。
小説を書くことは、人間を書くこと。
その資格があると言われたから……任務であっても人を殺せば、その資格が失くなると思った。
だから、一人も殺さなかった。
腹が立った。
まるで、作之助を否定するような、鏡花の言葉に。
腹が立った。
まるで、あたし自身を否定するような、鏡花の言葉に。
太宰さんの隣にいるために、必死で善人を装おうとするあたしに、「無意味だ」と言われたような気がした。
マフィアを辞めて、人を救う道へ進んだ太宰さんを、嗤われたよう気がした。
「鏡花ちゃん。人には向き不向きがある。そして、君には明らかな殺しの才能がある。だから、君は探偵社員にはなれない。君はそう思っている」
鏡花は肯定しなかったけれど、その沈黙こそが肯定だった。
「全くもって馬鹿馬鹿しい。その考えがいかに根拠薄弱か、一秒で証明して見せよう」
詞織、と名前を呼ぶと、太宰さんはヘッドホンをあたしに差し出してきた。あたしはそれを受け取り、マイクに語りかける。