第39章 光を夢見る少女
「やれやれ。芥川君の独走癖は相変わらずだなぁ……仕方ない。……敦君、彼に構っている暇はない。先に進もう」
後半は敦に向けられたものだ。
先を促す太宰さんに、敦は『ですが』と応じる。
確かに、敦が言って道を譲るような龍くんじゃない。
ヨコハマが消えるよりも、太宰さんに認めてもらう方が大事。
一度は自分を倒した、敦を殺すことで。
敦には理解できないだろうが、あたしには龍くんの思考が理解できた。
微かに足音が聞こえる。
たぶん、龍くんが敦に迫っているんだろう。
「大丈夫。私の言う通りにすれば、問題なく逃げられるよ」
まずは敦が龍くんに、「無線が太宰さんと繋がっている」こと、「太宰さんから話がある」ことを伝える。
それを遠くへ放れば、あたしと同じ太宰さん信者の龍くんは、それを受け止めずにはいられない。
言われた通りに実行したのか、無線にノイズが走る。
太宰さんが無線を切るのと、『太宰さんっ!』と叫ぶ龍くんの声が聞こえたのはほぼ同時だった。
ちょっと……可哀想……。
* * *
太宰さんは一つ息を吐き、鏡花の囚われている無人機へと通信を入れ、無人機の操縦ができるようにスイッチを入れ替えた。
「やぁ、鏡花ちゃん。聞こえるかい? 太宰だ」
太宰さんの言葉に応じる気配はないが、繋がってはいるようだ。
「特務課と交渉してね。とりあえず、君を地上に降ろせることになった。その無人機の操縦法を教えるよ。まず、その操作盤で……」
『いい』
静かな声が、太宰さんを拒絶する。
「どうして? 探偵になりたいんじゃなかったの?」
『もういい。もう、私は何も……』
無気力な言葉を紡ぎ、彼女は自分を否定した。
でも、と続けようとすると、太宰さんはそれを制して口を開く。
「……そうかい、分かった」
そう言って、太宰さんは操作盤のスイッチを切った。