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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第39章 光を夢見る少女


「やれるかい?」

 数秒沈黙した敦は、返事をすることなくメルヴィルに問いかける。

『落下を止めるには……どうすればいいんです?』

『制御端末を使うしかない。左に進んで、吹き抜けの先じゃ。むろん、警備は厳しいがな』

 厳しい警備……もしかして、組合の長が自ら守っているのだろうか?

 白鯨はこのまま落下してしまうのに?

 いや、ここで制御端末を奪われては、作戦は台無しだ。
 脱出の手段か何かを用意しておけば、組合の長が守った方が安全かもしれない。

 やがて、己の異能と果てようと言うメルヴィルを残し、敦は部屋を出て左へ進んだ。


 ――プルルルルルルル


 不意に、あたしたちの無線に別の通信が入る。
 通信を切り替えて応じれば、聞き覚えのある声に背筋が粟立った。

『ご機嫌かね、太宰君』

 ポートマフィア首領・森鷗外からだ。
それが分かり、太宰さんはあからさまに顔を顰めて、通信を切ろうとする。

『待って、切らないで!』

 首領の泣きそうな声に、彼はため息を吐いた。

「何ですか、森さん。マフィアには、探偵社の作戦の邪魔をしないよう、協定を結んだはずですが」

『その協定だが……今、部下から報告があってねぇ……』

 守れそうもないのだよ。
 言いにくそうに首領が言うのと同時に、無線機から敦の声が上がった。


『芥川⁉』

『人虎……!』


 龍くんの声⁉

 太宰さんを見れば、それは先ほどの、「可能性の一つ」と言っていたものとは違う表情だった。
 どちらかと言えば……。

「まさか……太宰さんが龍くんを呼んだの?」

「広津さんに頼んで、白鯨潜入の情報が芥川君に流れるよう細工をした」

 首領との通話を切り、無線のマイクをオフにして教えてくれる。

「どうして、そんなこと……」

 無線の向こう側では、敦と龍くんが交戦しているのか、ノイズが酷くて耳が痛い。

「太宰さん、このまま二人が戦ってたら時間が……」

 もう、一時間もしないうちに、ヨコハマは消えてしまう。
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