第39章 光を夢見る少女
『残ったわずかな人員も、次の輸送便で白鯨を離れる。なぜか分かるか、小僧』
老人の声だ。
確か、『白鯨』を呼び出した男が、メルヴィルという名の、髭を生やした老人だったと聞いた。
答えない敦に構わず、メルヴィルは先を続ける。
『「終わり」だからだ、この戦争のな。次の一撃で、組合の敵は全て灰となる。この白鯨と共に』
『灰だって? まさか……』
――横浜焼却作戦の第二段階――“白鯨落とし”
横浜の人間を一掃して、探し物をしやすくしようというのだろう。
そのうえ、落下地点には探偵社とマフィアの拠点もある。
組合にとっては一石二鳥だ。
すでに降下は始まっているらしか、一時間足らずで白鯨は地上に激突するらしい。
『この白鯨があなたの異能なら、あなたが落下を止められるはずです!』
『確かに、この白鯨は儂の異能……じゃが、今や内部の七割を兵器置換され、もはや儂に操作能力はない』
あたしは社長たちへこのことを伝えようと、席を立って部屋を出ようとした。けれど、太宰さんが腕を掴んでそれを引き止める。
同時に、敦が無線に呼びかけてきた。
『聞きましたか、太宰さん! すぐに作戦を中止して避難しないと……』
「……敦君、よく聞くんだ。作戦に変更はない」
きっぱりと、彼は断言する。
「君の手で白鯨の制御を奪取し、落下を阻止するんだ。それができるのは、今、白鯨にいる君しかいない」
まさか、太宰さんは……。
「分かってたの……?」
同じように、無線の向こうから尋ねた敦に、「可能性の一つとしてね」と太宰さんは答えた。
それも含めての人選だ、と。