第38章 彼女に遺された言葉
――四年前。
『人を救う側になれ。どちらも同じなら、良い人間になれ。そのほうが、幾分かは素敵だ』
死の間際、作之助は太宰さんにそう言った。
『……判った、そうしよう』
作之助の言葉に、太宰さんは静かに頷いた。
……忘れてた。
太宰さんの傍にいなきゃ。
太宰さんと同じ『良い人間』でいなきゃ。
そう思って、自分に向けられた言葉を忘れてた。
作之助は、あたしにも言葉を遺してくれていたんだ。
あの日、頷いた太宰さんを見た後に、作之助はあたしを見て――微笑んだ。
『お前にはきっと、白だって似合う』
あたしが、白いワンピースを着ているのは、そういうことだったんだ。
* * *
「――詞織」
名前を呼ばれて、あたしの意識が浮上する。
「何、太宰さん?」
見上げれば、少しだけ不機嫌そうな顔をした太宰さんがいた。
「……君は、織田作が好きかい?」
何を言っているのだろうか?
「もちろん、好き。死んでしまったからって、変わるわけない」
生きてても、安吾は大っ嫌いだけど。
そっちは変わった。
眉間にシワが寄るのが自分でも分かる。
太宰さんが止めなきゃ殺せたのに。
もういい。今度、こっそり闇討ちしよう。
そうだ。『良い人間』になるのはそれからでもいい。
そんなしょうもないことを考えていると、太宰さんがあたしの腕を引っ張り、階段の陰に隠れる。
そして。