第38章 彼女に遺された言葉
「どうして生きてるの? 作之助は死んだのに……作之助はあなたの……首領(ボス)と安吾のせいで死んだのに! なのにどうして⁉ どうして安吾は生きてるの⁉」
そう言えば、微かに安吾の表情が動く。
けれど、それはほんの一瞬のことで。
次にはまた、何を考えているか分からない、無表情に戻ってしまう。
織田 作之助――四年前に死んだ、大切な友達。
当時マフィアの情報員だった安吾が行方不明になり、その捜索を首領が直々に、マフィアの『下級構成員』であった作之助に命じたのが事の始まり。
けれど、それは海外からヨコハマに入国してきた異能組織の敗残兵である『ミミック』と作之助を戦わせる為の作戦だった。
その目的はただ一つ――特務課が発行する『異能開業許可証』。
ミミックをヨコハマで暴れさせ、それを鎮圧する見返りとして、特務課に許可証を発行させる。
その為に、首領は作之助を利用した。
なぜなら、ミミックの長は異能者だったから。
アンドレ・ジイド――異能力『狭き門』
『数秒先の未来を観測する』という、絶対に殺せない能力。
それはきっと、太宰さんでも無理だと思う。
どんな攻撃も奇襲も、予測されて防がれてしまう。
それが可能なのは作之助だけ。
作之助もまた、ジイドと同じ異能を持っていたから。
織田 作之助――異能力『天衣無縫』
『五秒以上六秒未満の未来を予知する』未来予知の異能。
安吾は首領の命令でミミックをヨコハマに招き入れ、首領の流した情報により、ミミックは作之助が養っていた孤児たちを殺した。
そして、作之助は『仇を取る』為、太宰さんが止めるのも構わず、ジイドとの決戦に赴き――相討ちになって死んだ。
思い出す――四人で過ごした、楽しい日々を。
思い出す――作之助が『殺された』、あの喪失を。
許せない、許せない、『赦さない』!