第37章 黒社会最悪のコンビ
「いやぁ、無理無理、諦めて死のう! もう、残った手は『1つしかない』しね!」
「1つ?」
あんなモノを倒す作戦が存在するの?
「1つって……」
その作戦に心当たりがあるのか、中也が太宰さんを解放した。
「『汚濁(おぢょく)』をやる気か?」
太宰さんと中也が“双黒”と呼ばれ出したのは、『汚濁』を使い、1晩で敵対組織を建物ごと壊滅させた日から。
あたし自身は、それを見たことはないけれど。
「ただし、私のサポートが遅れれば、中也が死ぬ」
「待って、太宰さん! だったら、あたしが……あたしの『妖櫻(あやかしざくら)』を使えば――」
太宰さんをヒドイ目に遇わせたラヴクラフトに一矢報いたい。
けれど、太宰さんはあたしの意見に首を振る。
「確かに、君の『妖櫻』は強力だ。その攻撃が届けばね」
「……っ」
そうだ。
あたしの血はラヴクラフトに効かなかった。
それならば、あたしの櫻の攻撃が届くかも怪しい。
唇を噛み締めるあたしに苦笑して、太宰さんはあたしの頭を優しく撫で、中也に向き直る。
頭を撫でてもらったことで、あたしの気持ちは幾分か浮上した。
相性の悪い相手もいるよね、と無理やり自分を納得させる。
「選択は中也に任せるよ」
「選択は任せるだと?」
そう、中也は引きつった笑みで太宰さんを見上げた。
「テメェがそれを言うときはなァ……いつだって他に選択肢なんかねぇんだよ! 後で覚えとけ、この陰湿男!」
「頑張れ、単純男」
「女の敵!」
「双黒(小)」
「誰が(小)だ!」
そんな軽口を叩きながら、中也は歪な造形物の前へ立った。
彼は軽く息を吸い込み、厳かに言葉を紡ぐ。
「【汝、陰鬱なる汚濁の許容よ、更(あら)めて我を目覚ますことなかれ】」
そして、いつも嵌めている黒い手袋を外すと、中也の纏う空気が一変し、黒い靄(もや)のようなものが現れる。
やがて、深く息を吸い込めば、手の先から黒く変色していき、足が接する地面がミシッと音を立てて大きくひび割れた。