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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第37章 黒社会最悪のコンビ


「おいおい……こりゃマジで、どういう冗談だよ……?」

 もはや、異能の領域を越えたソレに思考を奪われて、あたしはようやく太宰さんの存在を思い出す。

「……っ、太宰さん!」

 あたしの言葉に中也も思い出したようで、あたしたちは太宰さんの元へ向かった。
 折れた木を背に右腕を押さえる太宰さんの姿に、あたしたちは息を呑んだ。

「太宰さん……腕が……」

 太宰さんの右腕は、ギプスを嵌めていた肘から下が失くなっていた。

「中也……死ぬ前に……聞いて欲しいことが……」

「な……っ、何言ってやがる! 手前がこんなところで……」

 死ぬ前に?

 あたしは言葉を失った。

 太宰さんが死ぬ?

 どうして?

 そんなことが。

 あるわけない。

 太宰さんが死ぬはずない。

 どうしよう。

 どうすれば。

 そして、あたしは思い出した。


 ――私は、君が考えるより楽しみにしているのだよ。君が私を殺してくれるのを。


 あぁ――殺さなきゃ。
 殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。

 太宰さんが死ぬ前に。
 あたしが太宰さんを殺さなきゃ。

 あたしの頭が身体に命令する。

 太宰さんを殺さなきゃ。

 まるで洗脳されたように、あたしはナイフに手を掛けた――その瞬間。

「ばぁ!」

 太宰さんは、失われたはずの右腕を出した。

「怪我の身で戦場に出るなら、この程度の仕込みは当然だよ」

 腕を取られる直前、ギプスに通していた腕を引っ込めた為、カラのギプスだけ取られただけだったらしい。

 この様子だと骨折も嘘で、元々のケガも打ち身程度ではないかと勘ぐってしまう。

「う、そ……なの……?」

「残念だったね。殺し損ねて」

 妖しい笑みを浮かべる太宰さんに、あたしはナイフを握る腕を下ろした。

「残念……だった……」

 ホッと息を吐くあたしを他所に、中也は太宰さんの胸ぐらを掴んで揺さぶる。

「手品してる暇があったら、あの悪夢をどうにかする作戦を考えろ!」

 ラヴクラフトだったモノを指差す中也に、太宰さんは声を上げて笑った。
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