• テキストサイズ

血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第37章 黒社会最悪のコンビ


 太い触手を足場に、ラヴクラフトへ突き進んだ中也は、その薄い胸板を腕で貫く。

「重力、操作」

 彼が腕を引き抜くと、ラヴクラフトは地面に沈んだ。

「身体が……重……」

 ラヴクラフトの重みに地面がピシ…ミシ…と音を立ててひびが入る。

「俺の異能は、触れたモノの重力を操作する。そのまま朝までへばりついてな」

 再び跳躍した中也が地面へ着地すると、太宰さんは太い丸太を椅子に、長い足を組んで見ていた。

「お見事」

「ったく……人を牧羊犬みてぇに顎で使いやがって」

「牧羊犬がいたら使うのだけど、いないから中也で代用するしかなくてね」

「手前……」

 あんなに、簡単に倒した。
 あたしが、敵わなかった相手を。
 悔しい。悔しい。悔しい。

 言い合う二人をどこか遠い気持ちで見ていると、何かが軋む音が聞こえた。

 パキッ、ミシッ、ピキッ、ベキッ!

 中也の重力操作で重たい身体を、ラヴクラフトは無理やり動かして、起き上がろうとしていた。

「眠い……面倒臭い……だが……『フィッツジェラルド君』との契約は……果たさねば……」

 自分の組織の長を『君』付け?
 それに、『契約』って……。

 ――あれは異能じゃないんだ。

 太宰さんの言葉が過る。
 けれど、そんな悠長に考えている暇なんてなかった。

 次の瞬間。
 素早い触手が太宰さんの腕をギプスごと掠(さら)った。

「―――――ッ!」

「太宰ッ!」

「太宰さん!」

 同時に、さらなる触手に襲われて吹き飛ばされる。
 立て続けに太宰さんを攻撃されて、怒りの沸点を突破したあたしは、ラヴクラフトに向き直り、動けなくなった。

 大きく黒い影があたしたちを覆う。
 見上げるほど大きな触手が、歪な造形を絡ませてそびえ立った。
 それは、おぞましい芸術作品のようで。

 元はラヴクラフトだったその造形物に、中也は青い顔を引きつらせる。
/ 320ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp