第37章 黒社会最悪のコンビ
「愉快な冗談だなァ、オイ。異能じゃねぇなら、ありゃ何だ?」
当然の疑問は中也にも浮かんだようだけど、太宰さんはそれに答えることをしなかった。
太宰さんにも分からないのか、仮説は立っているのか。
それは分からないけど。
「仕方ない。懐かしのやり方でいこう。詞織、君は下がってて」
「え、何で⁉ あたしも一緒に……!」
「君の異能は、彼の能力に対して力不足だった。そうだろう? 一緒に前線に立っても役には立たない」
でも、と言い募ろうとしたけれど、「命令だ」と太宰さんに言われては、あたしは何も言えなくなる。
あたしが下がったのを確認し、太宰さんは中也へ口を開いた。
「作戦コード、『恥と蟇蛙(ひきがえる)』は?」
「はァ? ここは『櫺子(れんじ)の外に雨』か『造花の嘘』だろうが」
反論する中也に、太宰さんはニヤリと得意げな笑みを見せる。
「中也、私の作戦立案が間違っていたことは?」
中也は舌打ちをする。
太宰さんの立てた作戦に間違いはない。
それはあたしと同じくらい、もしかすればそれ以上に、中也は分かっている。
「クソ……! 人遣いの荒い奴だぜ!」
太宰さんはラヴクラフトの前に立ち、両手を広げ、ニコッと微笑みながら歩く。
ビチビチと跳ねる触手を操り、ラヴクラフトは太宰さんへ攻撃を仕掛けた。
太宰さんに攻撃が向けられたことで、条件反射で動きそうになる身体を押さえる。
次の瞬間、しゃがんだ太宰さんの後ろから中也が飛び出し、触手を蹴り飛ばした。
そう、太宰さんは囮。
太宰さんの長身と、中也の小柄な体型を活かした連携。
それに気づいたラヴクラフトが一瞬だけ怯む。
その隙を見逃すことなく、中也は太宰さんの肩を踏み台に、高く跳躍した。