第37章 黒社会最悪のコンビ
「太宰ィ⁉」
「太宰さん!」
あたしは、攻撃を放った張本人を睨みつけた。
「ゆるさない! よくも……よくも、太宰さんを……っ!」
太宰さんを傷つけるヤツは、誰であってもゆるさない!
ナイフで手のひらを切り裂き、そこから溢れる血を鋭く伸ばして、ラヴクラフトを襲う。
しかし、ラヴクラフトが伸ばす触手の表面を微かに傷つけるだけで、相手に攻撃を与えるどころか、進撃を止めることすらできない。
「な、なんで……⁉」
「どけ!」
中也はあたしを押し退けると、向かってくる触手に鋭い拳を連打する。
最後に一際重い拳を入れると、一時的に触手が撤退した。
「重い……拳……」
ラヴクラフトはコキコキと首を鳴らす。
重力操作の異能と合わせた攻撃だ。
重くないはずがない。
その隙に、あたしと中也は、飛ばされた太宰さんの元へ向かった。
「太宰さん!」
「おい、太宰!」
フラフラと立ち上がる太宰さんは、奇妙な笑い声を上げ、「ゲホッ」と咳込み、顔を上げる。
蒼白な顔色と攻撃を受けてボロボロの身体。
そう。
太宰さんは明らかに攻撃をまともに喰らっていた。
「手前……深手じゃねぇか」
「どうして……だって、太宰さんには……」
驚愕に息を呑むあたしたちに、太宰さんは低い声で言葉を紡いだ。
「あの触手……実に不思議だ。異能無効化が通じない」
太宰さんの視線の先では、よほど肩が凝っているのか、ラヴクラフトが首を鳴らしていた。
「通じないって……そんなこと……」
「馬鹿な。あり得るのか?」
「私の無効化に例外はないよ。可能性は1つしかない。あれは異能じゃないんだ」
「はァ……⁉」
「異能じゃ、ないの?」
あたしたちはラヴクラフトを凝視する。
異能じゃない。
だったら、あれは何?
「疲れた、眠い、腹が……減った。仕事を済ませて……早く……帰ろう」
ぼそぼそと繰り返し、ラヴクラフトは虚ろな瞳であたしたちへ向かう。