第37章 黒社会最悪のコンビ
「ねぇ、中也。連絡してあげようか? きっと、今からでもすぐに飛んで来てくれるよ。中也も欲しいでしょ? 優しい『彼女』。男の人だけどね」
淡々と、感情の籠らない声音で続けた。
いわゆるゲイと呼ばれる彼を、中也は絶対に攻撃できない。
なぜなら、彼は首領の友人なのだから。
そんな話をすれば、クスクスと笑う太宰さんがあたしを呼んだ。
「ねぇ、詞織。その『彼女』の連絡先、私にも教えてくれるかい?」
「ぜってー、止めろ!」
こうして、夜は更け始めていた。
* * *
梯子を上って小屋を出ようとしたところで、突然、中也の首を太い触手が捕えた。
「さっきから妙に……肩が凝る……働きすぎか……」
触手を辿れば、中也の放った岩に潰されたはずのラヴクラフトがぶつぶつと何かを呟いている。
「ぬぉあァッ⁉」
ラヴクラフトは、右手から伸びる触手を大きく振り上げ、中也を振り飛ばした。
飛ばされた中也は、バゴッと小屋の側面の壁を突き破る。
パラパラと木屑が風に散り、その中から、中也が血を流しながら立ち上がった。
その頭を踏みつけて、太宰さんは顎に手を当ててキメ顔を作る。
「むぅ。さすが、組合の異能者。驚異的なタフさだ」
「踏むな!」
「太宰さん、大丈夫?」
「俺の心配をしろよ!」
そんな緊張感のないやりとりをしている間も、ラヴクラフトはコキコキッと首をならしながらこちらへ向かっていた。
「来るぞ、どうする?」
口元の血を拭って尋ねる中也を、太宰さんは鼻で笑う。
「どうするも何も、私の異能無効化ならあんな攻撃、小指の先で撃退――」
そのときだった。
太宰さんが言い終わるよりも早く、太い触手が太宰さんを襲う。