• テキストサイズ

血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第37章 黒社会最悪のコンビ


 薄暗い階段を上り、地上へ繋がる梯子を目指す。
 中也がQを背負い、太宰さんが呪いの人形を、あたしは手ぶらだ。

「おい、クソ太宰。その人形寄越せ」

「駄―目。万一に備えて、私が預からせてもらうよ」

「あぁ、クソ。昔から手前は、俺の指示を露ほども聞きゃしねぇ。この包帯の附属品が!」

「何だって? 中也みたいな帽子置き場に言われたくないね」

 あぁ、また始まった。
 意味のない応酬にあたしは口を挟む気すらおきず、欠伸を噛み締める。

「この貧弱野郎!」

「ちびっこマフィア」

 あ、それ、笑える。

「社会不適合者!」

 一頻(しき)り暴言を吐き合ったところで、太宰さんは涼しい顔で髪をかき上げた。

「その程度じゃ、そよ風にしか感じないねぇ」

「ぐ……」

 中也は奥歯を噛み締める。
 お、ネタギレか?
 すると、中也は低い声で言葉を紡いだ。

「テメェが泣かした女全員に、今の住所伝えるぞ」

 ……は?

「ふん、そんなこと……」

「中也……?」

 あたしは、自分の中から溢れる殺気を押さえられなかった。
 それは、中也に対してだけじゃない。
 中也がそれをして、押し寄せるかもしれない女性たちに対する割合の方が大きい。
 だって、太宰さんは、あたしだけの太宰さんなんだから。

 でも、中也に力では勝てないから。
 あたしは俯いた顔を上げることなく口を開いた。

「中也さぁ……」

「な、何だよ」

 あたしの気配が変わったことに、中也が少しだけ焦った声を出した。

「……あたしね、マフィアにいた頃、首領に連れられてバーに行ったことがあるんだよね……」

「はぁ?」

 突然何の話だと言う中也。
 太宰さんは黙って続きを待つ。

「首領の古い友だちがマスターやってるの。すごく身体の大きな男の人でね、すごく繊細で家庭的なの。顔はちょっと強面だけど。最近、街で会ったら、『彼氏』にフラれて落ち込んでてね……彼、少し生意気で、単純で、細身で、オシャレな男の人が好みなの」

 そう、ちょうど……中也みたいな、ね

 あたしはようやく顔を上げて、薄く笑った。
 あたしの言いたいことが分かったのか、中也の顔がサッと青ざめる。
/ 320ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp