第37章 黒社会最悪のコンビ
「……止めないの?」
軽薄な笑みで尋ねる太宰さんに、中也は慌てることなく冷めた視線で答えた。
「首領には、生きて連れ帰れと命令されてる。だが、この距離じゃ詞織の方が早え」
中也は入口の扉からほとんど離れていない。
加えてあたしは、太宰さんの命令1つでQを瞬殺できる。
いくら相手が中也でも、この距離と状況なら、絶対に失敗しない。
中也は目を伏せ、「それに」と続けた。
「そのガキ見てると、呪いで死んだ部下たちの死体袋が目の前をちらつきやがる。やれよ」
呪いで死んだ部下……組合がQを使ってやった異能攻撃のことか。
中也が止める気配はない。
あたしは太宰さんを見た。
「そうかい。……じゃ、遠慮なく。詞織」
「はい、太宰さん」
「Qを解放して」
「……はい、太宰さん」
あたしはQに添えていた血液を大剣に変え、Qを捕らえていた木の根を切り裂く。
それを見て、中也は忌ま忌ましそうに鼻を鳴らした。
「ふん、甘え奴だ。そういう偽善臭えところも反吐(へど)が出るぜ」
「Qが生きてマフィアにいる限り、万一の安全装置である私の異能も必要だろ。マフィアは私を殺せなくなる。合理的判断だよ」
なるほど、とあたしは内心で納得する。
正直、太宰さんの命令に従うこと以外は、まるで考えてなかった。
むしろ、「命令、まだかなぁ」とか考えていた。
良い人間になるには、まだまだだ。
「マフィアが彼を殺すのは勝手だけどね。大損害を受けたマフィアと違って、探偵社は国木田君が恥ずかしい台詞を連呼しただけで済んだから」
あぁ、国木田かぁ。
『俺は理想の世界のために……!』
『あなたの命を何よりも……‼』
鎖でぐるぐる巻きにされていた国木田を思い出して、あたしは遠い目をした。
「社員に呪いが発動したのか。その後、どうした?」
「太宰さんが録画した」
目を見瞠る中也に、あたしは短く答える。
「当然の対応だよ」
国木田の立ち位置は、中也と同じだからね。
まさか国木田も、マフィアの幹部から同情されているなんて、思いもしないんだろうな。
* * *