第36章 共闘と対立のはざまで二人は
ポートマフィアとの共闘の話が決裂した日の夜。
あたしは太宰さんと山奥の山荘まで来ていた。
その小さな山荘にQが囚われていると分かったのは、今朝のことだった。
「こんなところに、本当にいるの?」
「あぁ。あれが、Qの監禁施設だ」
太宰さんにはQの異能が効かない。
だからこそ、太宰さんがこの奪還作戦に選ばれた。
あたしはその護衛である。
指名されなくても行くけど。
不意に、たくさんのライトがあたしたちを照らした。
眩しい光に、あたしたちは顔を庇う。
あたしたちを取り囲んでいたのは、武装した異国の兵士たちだった。
「やぁ、お嬢さん。また会ったね」
兵士たちに混ざって、ナオちゃんたちを攫おうとしていた2人の姿もあった。
オーバーオールの小柄な男と、ボロボロのコートを着た長身の男。
「こんばんは。うちの作戦参謀は、敵の行動予測が得意なもので。僕はジョン・スタインベック、こっちはハワード・フィリップス・ラヴクラフトだ。よろしくね」
向こうが勝手に名乗り出したのだ。
あたしたちが名乗ってやる必要はない。
2人の異能については、すでに太宰さんに話してある。
「……罠か」
口の端を持ち上げる太宰さんに焦った様子はない。
当然、予想はしていたのだろう。
あたしは太宰さんを庇うように立ち、手のひらに犬歯を立てて異能を発動する。
「太宰さん、あたしに任せて」
「…………」
太宰さんは返事をしない。止めないのは、肯定だ。
「……太宰さんには、指1本触れさせない」
もし、かすり傷一つつけたら、全員皆殺しにしてやる。
兵士たちがあたしたちに近づいた。
あたしは、血液の滴る腕を持ち上げる。
そのときだった。
突然、巨大な岩が飛んできて、ラヴクラフトに直撃した。
そのまま押し潰された長身の男を確認する間もなく、ドゴォッと派手な音を立てて落ちた岩の上に、小柄な人影が飛び乗る。
その人影に向かって銃弾が放たれるが、その人物は黒い皮の手袋を嵌めた手のひらを向けると、銃弾は手のひらの直面で制止し、カランカランと地面に落ちた。
「え……何で……?」
言葉を失くすあたしに、太宰さんは額に手を当てて大きなため息を吐く。
砂塵の向こうから、聞き覚えのある声が太宰さんに呼びかけた。