第36章 共闘と対立のはざまで二人は
「最初に言っとくがなァ。このゴミ片したら、次はテメェだからな?」
現れたのは、ポートマフィア五大幹部の1人、重力使いの中原 中也だった。
「あーぁ、やっぱりこうなった。だから朝からやる気出なかったのだよねぇ……」
「太宰さん、分かってたの?」
混乱しながらも、敵は攻撃の手を緩めない。
あたしは兵士たちの銃を異能で切り裂き、一気に距離を詰めて、中也直伝の体術で敵を吹き飛ばした。
「バカな! こんな奇襲、戦略予測には一言も……」
そう言いながらも、スタインベックが手のひらから木の枝を伸ばす。
そんなスタインベックの肩を、太宰さんはポンポンと叩いた。
「はい、悪いけどそれ禁止」
太宰さんの『人間失格』に、彼の手から伸びる枝が霧散する。
「なっ……異能無効化⁉」
そのスタインベックに紅い細身のハンマーを叩きつけたのと、中也が飛び蹴りを食らわせたのは、ほとんど同時だった。
あたしたちの攻撃に、彼の小さな身体は軽く数十メートル以上吹き飛ばされる。
「あぁ、最悪だ最悪だ」
「私だって嫌だよ」
太宰さんの隣に中也が着地し、太宰さんはギプスを巻いた腕で額を押さえた。
「中也、どうしてここに……」
「はぁ? 首領の命令だからに決まってんだろ」
舌打ちしながら中也が答えた。
そうだろう。
首領の命令でもなければ、中也が進んで太宰さんのところに来るわけない。
でも……だって……探偵社との共闘なんてあり得ないって言ってたのに。
太宰さんだって、そう言ってたのに……。
混乱するあたしの隣にいたのは、かつて、敵異能組織を一夜で滅ぼし、『双黒』と呼ばれた黒社会最悪のコンビ。
太宰さんがマフィアを裏切ったことで、本来なら二度と組むことなどないはずだった『双黒』――一夜限りの復活。
それは、対組合への探偵社とマフィアの共同戦線――反撃の狼煙だった。